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疾走するタイガーII型とメイド魔人

ぬしどの!早く!早く!」


俺は真央を抱っこしたまま裏山へと駆ける…のをやめ、まずは真央を着替えさせる。


山の中ゆえ、朝夕は若干冷え込むのだ。


俺は自宅の隣に建つ納屋に行き、「バンビちゃん」の隣に鎮座する二周りほど小さな車体に掛けられた覆いを取り去る。


乗車定員2名。車体乾燥重量600kg。最大出力140kwを搾り出すミッドシップツインターボエンジン。デフロック付六輪駆動。シャーシはドライカーボン製に置換されている。ちなみに元々の最大積載量は350kgだが、現在は荷台部分に頑丈なスポーツドライビングシートが4席取り付けられ、それらは屈強なロールケージで保護されている。車体の色はくすんだオリーブカラー。


農家のダチとも言うべき軽トラックを魔改造したそれは、じいさまの、通称「タイガーII型」である。


降雪時には後部の四輪にゴム製のクローラを履かせ、そこそこの雪道ならばスタックせずに走破できるすぐれものだ。タイガーなんちゃらの由来は車体の色とクローラから…。


ちなみにI型と呼ばれた初代も存在し、クローラを取り付けて実走行試験をしたところエンジンの出力がありすぎてまともに走行できずにお蔵入りしたという。


元々はどこかのパークに納める園内用交通機関の試作品だと聞いたが…最終的にどんな形状になったのかは聞いていない。


「こっちのちいさいのに乗るのか?あ、安全、いや、超安全運転で!ちょっ!そのように帯を何重にも…股の下にも通すのか!」


まずは真央を助手席に固定しばりつけ。俺は運転席に乗り込むとコンソールにいくつか生えた真っ赤なカバーのついたミサイルスイッチを順番に開いてレバーを倒し、最後に[START]と書かれたボタンを押し込むと同時にセルモータが唸ってエンジンに命が宿る。


「すきゅきゅきゅきゅきゅ…ぐぉん!ずばばばばばばばばばば!」


「ば、バンビちゃんよりも凶悪な音がするではないか!」


小さな車体に見合わぬ野太いエキゾーストサウンドが真央の顔色を悪くした。


俺は家でまだ寝ている人たちを起こさないよう、最初の数百メートルは「超安全運転」で走ったが。


「ぎゃああああああああああ」


真央の悲鳴なのか、タイヤのスキール音なのか…。


急加速によって周囲の空間をゆがめつつ、安全運転で問題の場所に数分とかからず到着した。


---


たなびくもやの中、朝日に照らし出された白亜の殿堂、その名も「混沌カオスキャッスル


高さ二十メートル、厚さ三メートル。一キロ四方ほどの白く輝く城壁の内側にそびえるいくつもの尖塔。直径は数メートル、高さは三十から五十メートルとまちまちで途中にいくつかの窓が見える。塔の先端はオレンジ色のスレート葺き。ただのスレートではなさそうだが…。そして敷地の半分を占める巨大な城の本体とそれに付随する建物は幾重にも折り重なり、複雑なラインを描く。


爆音と共に城壁に近づくと、まがまがしいつくりをした地獄の門がドバーン!と開け放たれ、メイドと思われる紺色のワークドレスを纏った少女数人がスカートを翻しつつ飛び出してきた!


「タイガーII型」をハーフスピンで停止させ、半分気絶している真央の拘束を解き、餅抱きにして降車する。


「真央様!お帰りなさいませ!」


「お、お前達、郷里に戻ったのではなかったのか!」


餅抱きにされたまま、城とメイドを交互に見る真央。


「お預かりいたしますわ!」


「おねがいします」


満面の笑みをたたえて両手を差し出していたメイドの一人に真央を渡す。


真央は自らが作り出した魔法生物だけが城を守っていると思っていたようだが、実際は彼女の使用人も残っていたようだ。


門の両側に控えるのは真央が作り出したというリビングメイルの一団。出迎えに現れたのは十体ほどだが、敷地内にちらほらと他のよろいが動くのが見える。


彼らの身長は二メートルほど。ずんぐりむっくりした白銀の全身よろいにはきらきらと夜露が光る。魔力を糧に24時間休みなく動けるらしい。シャチークも真っ青である。よろいの中身は空のはずだが、バケツをひっくり返したような兜の中央、水平に走る数ミリのスリットには二つの赤い光が覗き、その輝きに知性の片鱗を見せる。


リビングメイルというからにはもっと無骨なものかと思っていたが、そうでもなさそうだ。


そんな全身よろいが達が物音も立てずに静かに見守る中、メイド一同は真央を取り囲み、もみくちゃにしているのだ。


俺が適当に選んで買ってきたピンク系統の女児服を見て「KAWIIIII」を連呼。どこの外国人?いや異世界人か。


そのメイドの中の一人と目が合い、勝手に真央を連れ出した俺は文句を言われるのかと身構えたのだが…。


「数百年の間、お一人で外出した回数が両の手で足りるほど出不精のお嬢さまが、二ヶ月あまりおもどりになられず。ご無事なのは承知しておりましたが…その…」


俺の目の前に進み出たメイドだが、ブリムと呼ばれる頭の飾りが他のメイドと意匠が異なり、かなり大き目のレースがあしらわれている。おそらくはメイド長なのだろう。いわゆる隊長の紋章のような。


身長は百五十センチくらい。肌は白く、金髪さんよりもやや暗い金色の髪を肩の辺りまで伸ばした女性。普通の人と異なるのは頭に生えた羊のような黒い角と、でん部のすこし上から伸びるふさふさした灰色のしっぽ。


「申し遅れました。私、真央様のお世話をさせていただいております、下級魔人のディアと申します」


なぜか頬を赤らめ、上目遣いでもじもじしながら俺に挨拶をする悪魔っ娘?ちょっとしっぽは違う気がする。


「先ほどの続きですが…既成事実は作られたのでしょうか?」


それで顔を赤くしていたのか!


俺は寝不足で頭が混乱しているらしい。つまりは男女の仲になったのかと?


「イヤソンナコトハ…真央、後でみんなを連れてくるから…しばらくメイドさんと戯れるがよい」


この城はおしっこ勇者達にも見せておいたほうがいいだろう。


「他のお連れ様がいらっしゃるのですか!それでは、朝食をご用意いたしましょうか?真央さまもまだですよね?」


もみくちゃにされ、うんうんと涙目で頷くばかりの真央。


「ええ、起き抜けでそのまま来たので…それじゃお願いします」


うちの居候たちの人数を伝える。夕飯に気をとられ、朝はカップめんくらいしか用意していなかったので助かった。


「藤枝の朝ラーメン」って書いてあったから朝食べなきゃ。と、うちのお嬢様が買い求めたものだが…。


朝っぱらからラーメンとはクレイジーな風習だと思ったのはないしょだが、一応理由はあるらしい。


たしか荒茶の仲買人の朝は早いだったか…。


「いやあああああああ」


メイド達にみこしのように担がれ、城の中に連れ去られる真央を見送る。メイドの一人は真央のミニスカから覗くおぱんてぃうす様に釘付けとなっていた。いわゆるキャラショーツというやつだ。


去り際、「二ヶ月も男性の下で過ごされて何も無いとは…残念でございますわ…」というメイドの嘆きが聞こえた気が。


門が閉じられ、それを確認したリビングメイル達はこちらに一礼して城の警備に戻っていく。


あまりの衝撃インパクトに城の移設について説明しわすれたが、後で良いか。



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