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聖なるローブを着た悪魔

やや番外編とほぼ同時刻。

エリーシャの救出に成功した俺は、主が不在のまま稼動を続ける

「混沌城」(カオスキャッスル)を根こそぎ転送し…

「さすがにあれは埋めないとダメか…」


地下の構造ごと城を切り取ったら溶岩が湧き出てきたのでござるの巻。


戦艦のモニタに映し出される地獄絵図。城に乗り込もうとしていた百数十名ほどの盗人連中が雲の子を散らすように逃げていった。幸いにもどす黒い瘴気と共にせりあがる溶岩流は彼らの足より若干遅かった。


「あれは城を維持するための魔力源だ」


と、真央が言う。普通の溶岩とは異なるらしい。


なるほど。城の地下構造体を地脈に直結して、無尽蔵のエネルギーを得ていたわけか。


地下からせりあがってきた溶岩が切り取った地面すれすれに到達し、あふれ出すかと思いきや真っ赤に輝いていた表面が急激に黒くなる。


「地下に比べ、地表近くは魔力が極端に薄い。魔力が拡散すればただの岩になるのだ」


転送によって大きくえぐられた部分は、わずかな時間でごつごつした岩肌の大地となった。


---


「ほとぼりが冷めるまでエリーシャはうちで待機かな」


復興事業もあらかた終了し、神器を返せばエリーシャの役目は完了だったはずが、なぜこうなった。


それについては偶然判明した。


実際、今回の魔王討伐に関して、真央が何か悪さをしていたかといえば、「ノー」である。


真央が眠っている間、城からすこしずつ漏れ出していた「混沌」はこの世界にさほど影響を与えておらず、別の力によって人々の間では些細なことから諍いが起こり、徐々に焼き討ちや略奪などが横行するようになる。


それを「魔王」のせいと吹聴していたのが、さっきモニタに映っていた盗人連中の親玉だったと。


表向きは教会のトップ。裏では悪意を広め、武器を売りさばき、暴利を得ていた死の商人。


争いをたきつけていたのは魔王ではなく、教皇その人であった!


魔王討伐も自身への求心力維持の為の、いわばてこ入れ。


エリーシャによる予定外の復興事業により治安が回復して裏家業が大ダメージを受け、その補填にと魔王城の攻略に乗り出すも失敗。


そこでエリーシャをもう一度担ぎ出して亡き者にしようと画策。あわよくば城のお宝もゲット!


と、いうとんでもない計画が「本人の口」からつらつらと語られたのだ。


追い詰められた悪人はよくしゃべるというけれど。


---


一時間ほど前。


俺と女神は念の為に現場の様子を見に行ったのだが、横倒しになっていた豪華な大型馬車の中に若い女性が閉じ込められていたので助け出したところ、ゴージャスなローブを着たむさくるしい老人がへばりついており、ひとまず近くの農機具小屋に…。


目を覚ました老人は俺の横にいた金髪女神を見て「おお!神よ!」とひれ伏し、今までの悪事をすべてぶちまけるに至る。


ちなみに助けた女性は奴隷であり、無理やり老人の命令を聞かされていると金髪さんが言うので、不憫に思った俺は神器の力(銀色のにくいやつ)でその契約をばっさり破棄したのだが、それまで暗く沈んでいた女性の表情が一変して鬼の形相に!


「このじじいが!わが一族の恨み!思い知れ!」


女性はひれ伏していた老人のケツを思いっきり蹴り上げ、老人はごろごろと転がりながら安普請な農機具小屋の壁を突き破って外に飛び出し、ドボンというなにかよろしくない音と老人の悲鳴が響いた。


外には確か発酵させた有機肥料を備蓄している穴が…。


「くそったれにはお似合いの場所だ」


せっかく有機肥料とぼかしたのに台無しじゃないですか!


あふれ出る美貌に似つかわしくない非常によろしくないセリフを吐いて、非常にすっきりした表情となった女性が金髪女神の前にひれ伏す。


「神前での無礼、なにとぞお許しください…」


肌着のような薄い衣でいつまでもぺたーっと土下座ingドゲジング状態であったが、ふと、お嬢様のお迎えに行かなければならないことを思い出した俺。


「ひとまず転送!」


転送範囲外に飛び出した老人はその場に放置し、女性を連れて「戦艦」に転送。


---


「金髪さん、その人の世話は任せた!」


「そ、そんな!」


金髪女神には混沌を振りまく予定の世界で拾った女児と、真央のいた世界で拾った若い女性がへばりつき、エリーシャはその様子を見てニコニコしていた。


空間を跳躍して俺の世界に戻り、真央の城は保護フィールドに包んだまま「戦艦」の近くにつなぎとめておく。


またおかしなトゲトゲの物体が現れたようだが、対応は委員長AIに丸投げ。通信先をたどってもらうことに。


「それじゃうちに帰ります!」


「所有者!まかせておけ!」


委員長AIがサムズアップする。


---


少女と女性も含めて自分の家に転送。


「「あの、ここは?いったい?」」


めまぐるしく変わる周囲の環境に、拾ってきた少女と奴隷であった女性は耐え切れずに立ちくらみを起こしたようだ。


「金髪さん、目を覚ましたら何か飲ませてあげて!」


二人を急いで客間に担ぎ込み、金髪女神さんに再度世話をお願いをする。


バンビちゃんのエンジンを始動し、お嬢様の迎えに行く準備をする俺に真央が尋ねる。


ぬしどの、城をどうするつもりだ?まさかあそこに放置を?」


城の中には真央の部下がそのまま残っている。


「いや、俺にいい考えが。その前にお嬢様を迎えにいかなければ。真央も来るか?」


帰りにまたもや焼肉弁当を買う予定であるが、今度は真央が好きなものを選ばせる予定だ。たぶん焼肉弁当(松)を選ぶと俺の右目。


おっと、何かに意識を乗っ取られかけた。


「超!超安全運転なら…」


「よし、わかった」


直後、バンビちゃんは私道を離陸する勢いで加速する!


---


バンビちゃんのステアリングに埋め込まれたコールスイッチを押し、ある人物の名前を告げるとアニソンが流れていたスピーカーが一瞬ミュート。電話の呼び出し音に切り替わる。


ちなみに真央は助手席で目を回して気絶中だ。ちょっと加速が強すぎたか。


「もしもし、じいちゃん、俺だよ俺」


今をときめく自動車産業の花形とは言わないが、堅実な経営で浮きも沈みもせずに業界の荒波を突き進む松一自動車の会長、つまりは俺のじいさまに電話をしている。


「どうした!もしかして車を壊したのか?だが振り込まんぞ!絶対に!NO!」


いやそういう…ホワイトさんみたいなことを言ううちの爺さま。


「いや、車は絶好調だよ!今日は別の話。裏山近くの工場跡地、あそこを貸してほしいんだ」


その昔、軍の秘密な工場があったという、小高い山に囲まれた数キロ四方のだだっぴろい場所は更地のまま数十年以上放置されていた。理由はいろいろあるが、なぜかうちの一族の管理下にある。


ちなみに町に出るための私道が通るこの場所もその敷地の一部だ。


「あんな石だらけの場所に畑でも作るのか?なんとかの薬草はやめとけ」


「薬草じゃないよ。知り合いから城をもらったんで、移設したいんだけど」


「城?」


「そう、城」


「おまえ、移設って言っても…どのくらいの大きさなんだ?」


俺は何故か直感的に上方向のサイズだと思い、高さを言う。


「うーん。数十メートルくらい?大丈夫、費用もかからないから」


城はそのまま空間転移させ、入れ替えた土は戦艦にある農業プラントに送り込む。


どこかで土を仕入れる予定だったが、量が量だけにどうしようか悩んでいたのだ。


「まぁそれなら…残土はちゃんと処分するんだぞ」


微妙に話がかみ合わないまま、通話は終了した。


---


松一自動車の役員室。


ついこの前、孫から車を買いたいと電話があり、内緒で特別仕様のエンジンに換装したモデルを送り込んだ老人。


自分の調整した車に何かあったのかと思えば城の話であった。


「数十メートルか。あいつ、ミニチュアの姫路城でも建てるつもりか?」


老人は役員室の棚に飾られたプラモデルの城を眺める。


ずいぶん昔、孫が老人にプレゼントするために作ったものだ。隣には何故か同スケールの怪獣ソフビも置かれている。


「じーちゃん!俺、大きくなったら城建てるからな!じーちゃんの部屋もちゃんとあるからな!」


城のプラモを手に、真っ黒に日焼けした顔をほころばせていた少年の幻影が見えた気がした。


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