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やや番外編「約束の船(エンゲージメントシップ)」

ここは某国の某宇宙センターの地下深く。


最下層に達した高速エレベータのドアが開き、一人の老人が姿を現す。


カツン、カツンと杖の音だけが響く空間に突如として罵声が飛んだ。


「箱舟を見失っただと?」


地下数百メートルに作られた発令所に詰めているスタッフ数十名に緊張が走る。


「古文書に示された約束エンゲージメントシップ。幾多の血税を注ぎ込んで月にまで赴き、その月の裏を掘り返してもなお見つからなかったあれが…手がかりがようやくつかめたところだったのに」


老人は怒りに任せてメインスクリーンに向けて軽金属で作られた杖を投げるも、立体投影されたそれは一瞬像が揺らいだだけで、投擲された杖は「カランカラン」と乾いた音を立てて床に転がる。


そのスクリーンには大小の小惑星が映し出され、中央部には何かが存在していたと思われる不自然な穴が空いている。


「もう一度、周囲を探せ。くまなく、だ」


若い技術スタッフがスクリーンの一部を拡大し、老人に報告する。


「司令…もうひとつ報告が…現場に投入したプロビデンスの目の推進剤が底をつきました」


「燃料切れだと?」


「プロビデンスの目」とは冷戦終了間際に作られた人工知能を搭載した長期運用可能な諜報軍事衛星。地球の影に入っても機能するよう大容量熱核電池をメインバッテリーに採用、ステルス性を持たせるため、漆黒のボディに電波吸収用のスパイクを無数に配置した異色のものであった。


もともと深宇宙を探索するために設計されたものであったが、緊迫する大国間の情勢を鑑み、急遽軍事衛星として作り変えられた。


無理な設計変更により開発は大幅に遅れ、ロールアウトと同時に冷戦が終結。


今度は敵国ではなく、国民を監視する目としての役割を与えられた衛星。


それに反対した研究者の内部告発によって存在が暴露されかけるも、その暴露自体が娯楽映画の企画と報じられ、そのまま闇に葬り去られたことは一握りの人間だけが知る極秘事項。


その後、残りの寿命を小惑星帯の調査に費やす予定であったが、投入直後に不可思議な電磁波を捉え…。


そして内部告発を行った研究者だが…。


「司令…杖を」


司令と呼ばれた男と、さほど年の変わらぬ白髪の老人が、先ほど投げられた杖を拾って持ち主に届けた。


「あれを忌み嫌い、告発し、廃棄しようとしたおまえが…どうしてここに」


白髪の老人の後ろには発令所の女性スタッフが立っていた。


「す、すいません!衛星の構造について不明な箇所があり、設計図を調べていたら…祖父の名前があって…」


「孫から連絡をもらったときは正直驚いたよ。自分が作ったものを嫌う?そんな馬鹿なことを。あれは宇宙の外に向けるための「目」であり、国民を見下ろすためのものではなかった。正しい使われ方をするのであれば、協力は惜しまない。「地球外生命体」とのコンタクトが目的であればなおさら」


白髪の老人は若い技術スタッフから旧式のコントローラを受け取ると、なれた手つきでプロビデンスの目に「コマンド」を叩き込む。


「あれには他国からの衛星攻撃に備え、防衛用の小型ミサイルが搭載されている。発射用に備蓄された推進剤を姿勢制御に回せばしばらくの間は運用できるだろう」


二十分ほどしてスクリーンにはそれまで見えなかった隠しバイパスが表示され、メイン推進剤残量計がプラスに振れる。


「「「「わあああああああ!!!!」」」」


発令所に歓声が沸き起こった!


それから数時間後。


「プロビデンスの目より新たなデータ受信。映像出ます!」


姿勢制御を取り戻した「プロビデンスの目」が最初に送ってきた映像は、その場にいた人間の想像をはるかに超えるものであった。



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