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くまさんと魔法生物

超おひさしぶりです。

「こどものひ」ということで、お子様特集的な感じでお送りします。

漆黒の宇宙に浮かぶ白銀の城。


全長7kmの「戦艦」の横っ腹、数百メートルほどの領域が大きく口を開き、中から牙を模したアームが繰り出された。


その牙に食いつかれた「ミレニアムコンドル」は戦艦の内部へと吸い込まれる。


---


「「ミレニアムコンドル」「戦艦」内部第一ドックへの係留完了。外部電源接続完了!リアクターをスリープモードに移行しまーす」


ヤボカワさんが軽快なタッチでターミナルを操作する。


巨大な茶筒の外部ポートに各種ケーブルが差し込まれると、ドックの上部に取り付けられた巨大な工具入れから大量のメンテナンスワークボットが解き放たれ、次々「ミレニアムコンドル」へと張り付く。


ワークボットの色は本来黒色だが、俺が赤くするように頼んだ。いや、頼み込んだ。


艤装中に表面をうごめく彼らを見たとき、G種(ry。


「ミレニアムコンドル」の表面にバチバチとアーク溶接のような光がそこかしこに瞬く。


---


無事に処女航海から戻った「ミレニアムコンドル」を「戦艦」内部のドックに収容。


ドック上部の発令所に立ち寄ってテキパキと仕事をこなす作業着姿のメンテナンスAI嬢の頭をわしわしと撫でた後、連絡カーゴに乗り込んでメインブリッジへと移動する俺たち。


ヤボカワさんとも一旦別行動になる。


もちろんヤボカワさんもわしわしした。ん。頭ですよ。


ドックからブリッジまで艦内を移動すること約3km。カーゴの移動速度はそれほど速くない。


カーゴ内部は八畳ほどの長方形、簡素な座席が壁に沿って取り付けられた密室になっている。丁度ロープウェーのゴンドラのような感じだ。


進行方向右側に俺と真央が座り、対面に金髪さんと例の女の子が並んで座っている。


カーゴには窓の代わりに高解像度のモニタが取り付けられ、どこかの風景が恐ろしいほどのリアリティで表示されているが、俺の知る地球のものではなさそうだ。


「金髪さん。今回の件、ライトブラウンさんに連絡を」


「あ、はい、そうでした!」


金髪さんは既に忘れていたようだ。なんということでしょう!


そして俺はそのままブリッジに全員転送すればよかったと若干後悔する。


密閉空間に風呂上りの金髪さんから放たれる神秘的な香りが充満し、俺の鼻腔を激しく刺激するのだ。


くそう。風呂を覗きにこなかったからって魅了スキルを使っているのか!そうに違いない!


俺は金髪さんの山脈に吸い寄せられそうになりつつも平静さを取り戻すために、隣に座っていた真央を抱き上げてひざにのせ、彼女の背中に顔をうずめて深呼吸をする。


「あー、やっぱり真央のにおいは落ち着く。混沌カオスって感じで」


うちで使っている柔軟仕上げ剤のアロマスメルとお子様特有のいいにおいを満喫する。


「んぎゃ!は、離すのだ!ぬしさま!人前で何をする!はれんちな!」


じたばたと両足をばたつかせて暴れているうちに徐々にせりあがる真央の漆黒ドレス。


「くまさん?」


真央を見つめる対面に座っている例の女の子。もしかして真央のおぱんてぃーむが見えてますか。今日は「くまさん」のプリントのはずですよ。俺が洗って真央専用のたんすに曜日順につっこんでますから。そうしないと毎日同じしまぱんてぃーむを着用されるので。


放っておくと、ドレスにしても下着にしても浄化と補修の魔法があるからと言ってずっと同じ格好のままだからな。


干物ようじよか!うちのお嬢様の教育上よろしくないので、普段はファンキーセンターましらむで大量に買った特売女児服をとっかえひっかえして着せている。


ちなみに連れてきてしまった少女には真央用に買った予備の特売服を着せている。字面が特攻服に見える気がするが気にしてはいけない。


真央の香り、まぁ柔軟剤のアロマスメルだが、を堪能し、金髪さんのスキルを遮断してようやく立ち直れた。


真央のスカートの乱れを直しつつ、尋ねる。


「ま、真央。聞きそびれていたんだが、魔法生物って何?」


「ほう、聞きたいか。聞かせてやろうか。ただし」


「プリンでいい?」


「ぷっちんするやつだ!いつもよりひとまわりおおきいアレ!」


やすっ!金髪さんもそうだが真央もかなり安上がりだ。


真央がもともと居た「世界」には娯楽や嗜好品が少ない上に、真央自身、数百年ほど屋敷に篭って眠っていたらしいので、とにかくその手の刺激に飢えていた。


うちに連れ帰った直後、お嬢様と一緒に見ていた女児向けアニメに感化され、ヒロインの必殺技を真似た二人に何度とび蹴りを食らったことか。


俺は悪の手先じゃない!


脱線したが、アレといえば真央を「討伐」したことを捏造する為に、おもらし勇者に持たせたあれ。


真央が身に着けていたペンダントの代わりになるものを見に行ってなかった。ちょっと奮発するか。


「真央、今度の休みに街に出かけるか?お嬢様も一緒だけど」


「デパートというところだな!ケーキバイキングというのを見てみたいぞ!」


なにか偏った知識がインストールされているようだ。


「それもあるけど、ペンダントの代わりを買おうかと思ってな」


「主さまが選ぶものなら何でもよいぞ」


そこに金髪女神が口を挟む。


「ええっとホワイトさんに聞いたのですが、お給料の半年分でしたっけ?私はそんなに高くなくても良いです むがっ!」


金髪さんがデレっとした表情で不穏なことを口走るので、対面の座席にダッシュして親指と人差し指で口を挟んであげた。


どうやら魅了スキルも含めてホワイトさんの入れ知恵のようだ。あのじいさま…。また委員長AIをぶつけてやるか。


---


「所有者!覗きが現れた!」


メインブリッジ横にしつらえた偽和室一号(元ブリーフィングルーム)に入ると、まってました!とばかりに委員長AIが飛びついてきてぎゃいぎゃいと騒ぐ。


ほら、お客様が驚いていらっしゃいますよ?


「というか、覗き?「戦艦」の中で?いや、誰がどこを覗くんだ」


女児AIしかいない船内に不審者?どこから入るんだ?俺か?


僕が委員長に尋ねると。


「「戦艦」の外からだ!」


ふむ。…んん?外?


僕の思考がおかしくなっていると、今までぼやっとしていた少女の瞳に光が戻る。


「あれ?ここは。女神さま、ここはどこなのでしょう?」


「えーと、ここは…なんでしたっけ?ぶ、ぶりーふるーむ?」


連れ帰った少女はようやく我に帰ったようだ。彼女は金髪さんに任せておこう。金髪さん、それ違うから。


「それで、宇宙空間から覗きとは穏やかじゃないな、委員長」


「こいつが覗いていたんだ!」


委員長が指を差すと、偽和室の壁の代わりにそれっぽい砂壁のような模様を表示していたモニタが一部暗転し、覗きの犯人らしき映像に切り替わる。


一見してウニというか、機雷というか。画像処理で背景の宇宙から切り抜かれたソレは、真っ黒な塊からたくさんのスパイクが飛び出した非常にパンクな物体で、出現時のサイズは直径十メートル程度、とげを含めると三十メートルくらい。


「「戦艦」から数十キロ離れた空間に突然現れたのだ。所属を確かめるためのコールには一切応答せず、数分間こちらにスキャンビームらしきものを照射し続け、忽然と姿を消したのだ」


艦の周囲にはデブリが多く、小さな物体の接近は捕らえにくいと言う。


興奮した委員長は体温が上昇、額はもちろん、セーラー服の襟元にうっすらと汗がにじみ、ミルクっぽいにおいが。擬似生命体なのにすごいな。と違うことに感心する俺。ちなみにまだ抱きかかえている。


俺は委員長の汗をぬぐいつつ聞いてみた。


「ホワイトさんの追加視察じゃないの?」


「あのじじいならもっと正々堂々あつかましく来るはずだ!」


なるほど。ちなみに委員長が言うには「稚拙なX線」によるスキャンは装甲でブロック。遮蔽したことを知られないようダミーのデータを投影しておいたらしい。


「ちなみに心当たりは?」


「検索するのでしばし待たれよ」


委員長AIは目を閉じて沈黙する。


「…この艦に残っているデータに該当する情報は無いようだ」


三十秒ほどしてから首を振る委員長。この「戦艦」はホワイトさんの見立てでは数万年前の「他所の世界」に存在していたらしい船のコピーだ。


データベースについてもおそらくは数万年前の「他所の世界」のものだろうし、こちらの世界で該当する何かが現れるということはないだろう。


あのウニのような物体…。なんとなく見た記憶がある。


学生時代に見に行ったスパイ映画。公開前に話題となった戦略偵察衛星を扱ったシーンがまるっとなかった事にされてちょっとした騒ぎになったのを思い出した。


事前に流れていたPVに一瞬だけ映っていた衛星。形がやたらとトゲトゲしていて、いかにも悪役が使いそうな感じの…。


映画の公開時、ファンの間では「あれは某国が開発中の軍事用衛星で知られるとまずいものだったらしい」という憶測も飛び交った。


数日後、映画は急遽公開中止となり、ネット上の掲示板の憶測もきれいさっぱりと消され、シリーズ物だった人気のスパイ映画の続編はその後作られることもなく忘れ去られた。


「…考えすぎか。艦載機も増えてきたし、訓練を兼ねて偵察に出すか?」


それと…。


「委員長、戦闘機もいいけれど、ロボを作ろう!」


多脚戦車に感化された俺は、せっかくの設備を無人戦闘機の生産だけに使うのはもったいないと…。


今までのあわてっぷりから一転、俺のひざの上でニヤリと笑う委員長AI。


「こんなこともあろうかと」



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