聖国の兵士
お久しぶりです。
「隊長!連中は歩兵だけのようです!」
男が指し示す方向に何かがうごめく。
俺は透明になっている銀色のにくいやつのバイザーを使って視力を強化する。
人間じゃない?上半身は人を模しているが下半身はおよそ人の形からかけ離れた機械がざっと三十ほど、たくさん生えた足をぎちょぎちょと器用に動かし、こちらに向かってくるのが見えた。
それぞれが武装をしているとバイザーに赤く表示された。
カニは伸ばしていた四本の足を畳んで地面に胴体を接地させ、甲羅の一部を開く。
そこには携行武器と思しきものが露出する。
「この中に武器を扱えるものがいれば協力をしてほしい!」
服装から猟師と思われる数名の村人が武器を手にし、慣れた手つきで弾薬を装填するとまだ形の残っている建物の影に身を潜めた。
カニが立ち上がり、荷馬車を引いてUターンを開始。しかし、その歩みは遅い。
俺と女神、そして少女が固まったまま動かずにいると、さっきの女性が大声を張り上げた。
「どうした!ここは我々に任せて早く逃げるんだ!」
「俺も戦います!」
「それなら武器を取れ!」
俺は女性から自動小銃らしきアイテムを受け取る、
「金髪さん、この子を頼んだ。俺はここで敵らしきやつらを食い止める」
「だ…だめです!まずは上に報告を!神の代行は直接手を下してはいけない決まりに」
「この人たちを見殺しになんか出来ない!」
俺が隠蔽状態のスーツを露出させようとしたその瞬間!
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俺達と敵らしき歩兵の間に閃光が走り、小さな黒い影が現れた。
見慣れたゴシックロリータ服。
「真央?」
彼女は歩兵に向けて両手をかざす。
歩兵の周囲が真っ黒いどよどよとした霧に包まれると、その中から激しい音が聞こえ始めた。
発砲音やら何かを殴りつける鈍い音やら。黒い霧は流れ弾なども封じ込めているようだ。
俺たちはそれを見つめることしかできなかった。
三十秒ほどして、すっと霧が晴れる。
真央はこちらを向き、得意げに歩いてきた。
「見るがいい!これが混沌の力だ!」
彼女の後ろには敵兵の残骸が残るだけだった。
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「あのような魔法生物の出来損ないごときに遅れをとるとは、この世界はいったい!…」
俺は何かをぶつぶつ言う真央を小脇に抱え、金髪さんの手を引いて村の外れの教会跡にたどり着く。
誰も見ていないことを確認してから惑星の軌道上に待機していた「ミレニアムコンドル」に転送で戻る。
絶対に怪しまれたよなぁ…。武器は一応返してきたけど、目が点になっていたし。
「ミレニアムコンドル」内部の偽和室二号の畳に腰を下ろし一息つく。お留守番をしていたヤボカワさんは良いとして、一人多い気がする。
「金髪さん、その子は!」
「え?あれ?どうして?」
金髪さんと手をつないだままの女の子が目をぱちくりとする。
「みんな、いきなり走り出したからついていかなきゃって思って…ええっと、神様、ここはどこですか?」
シェルターに案内してくれた女の子を一緒に転送してしまった!
「ごめん、今すぐご両親の元に」
「お父さんとお母さんのこと?だったらいないよ。教会の子だからね」
つまりは身寄りの無い子だったのか…。
その教会もあのよく分からない連中に壊されたらしく、一緒に暮らしていた人たちとも離れ離れになったと言う。
「教会でお祈りをづつければいつか神様が聞いてくださるって、おばあちゃんシスターが言ってたの」
地上に降りたときとは違い、なにやら神々しいおーらを漂わせる金髪さんにさらにメロメロといった感じの女の子。
金髪さんは女神だけあって自浄作用があり、俺はスーツで覆われていたからどこも汚れていないが、女の子は最初会ったときよりもかなり…。
「あー、金髪さん、悪いんだけど、その子といっしょにお風呂へ…」
「え?これってお風呂ついているんですか?」
「所有者の要望どおりに作ったと委員長が言ってました!」
とヤボカワさんの説明が入るが、説明になっていないので補足する。
ミレニアムコンドルの内部には一般のアパートくらいの居住スペースがあり、台所はもちろん、ユニット式だがバス・トイレ、洗濯機なども完備されている。
ある程度の長期滞在を視野に入れて作らせたのだが、早速活用されるとは。
ちなみに船体内部は居住スペースのほか、航法装置やらシールド発生装置やら生命維持装置やら高速転換炉やらスリップドライブやらでめいっぱいなので、「スルーフィード」などは外にぶら下げるしかない。
「あの、おふろ覗いたらだめですからね!」
「しかし、あの世界が戦争になっていたとは知らなかった。一度「戦艦」に戻ってライトブラウンさんに報告しよう」
まったく返事になっていない。俺は金髪さんの覗きに来いというメッセージを破棄した!
金髪さんがお風呂でしょんもりしつつ、女の子を洗い終わるころ「ミレニアムコンドル」は「戦艦」の近くにたどり着く。
最初の混沌は振りまかれた!