それは天から落ちてきた
それはゲーム中に起こった。
ようやく完成したアーケードマッスィーンのアップライト筐体。
部屋のサイズに合わせて自分で図面を引き、ホームセンターでプレカットしてもらったコンパネに看板屋さんに注文したシートを貼り、組み立てたものだ。
筐体の中身はコンシューマ機だが、コンパネは業務用に使われるもので、貯金箱にしかならないがダミーのコインボックスも備えてある。
程度のいいブラウン管モニタが手に入らなかったので代わりに画面比率が4:3の中古液晶モニタを取り寄せたのが心残りだが。
プレイするのはもちろんお気に入りのシューティングゲーム。
心眼を開き、画面を埋め尽くす弾幕をかいくぐり、ボスのライフを1ドットづつ削り、残りあと数ドットに迫ったとき。
「ぴしゃーーーーーーーーーーーーん」
何かが脳天に突き刺さる感触。
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いつのまにか白一色の殺風景な場所に立っていた。
なぜか目の前に、茶髪と金髪の女性らしき人物がいる。二人とも高そうな薄いピンクのドレス姿。大理石と思われる床の上でぺたーっと土下座ingの最中だ。
茶髪というかライトブラウンのほうが金髪の頭をぐいぐいと床に押し付けながら、何かごにょごにょ言っている。
「神器で紅茶をかき混ぜるバカがどこにいるのですか!」
「だって…紅茶がおいしくなるって」
俺の目と耳は壊れてしまったのだろう。これは夢だ。ここ数日、寝る間も惜しんで筐体作ってたもの。
「あの…」
二人がびくっとなる。
「ここはどこなんですか?なんで俺はここにいるんです?」
ライトブラウンのほうが答えた。
「ここは天界です。そして…あなたさまがここにいるのは」
ライトブラウンは金髪の首根っこをつかんで、強引に顔を上げさせる。
「このバカのせいです!」
そこには二人の美女がいた。
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俺は別室に案内され、コーヒーを飲まされていた。いや、別にいらなかったのだけれど、金髪のほうが涙目で見るものだからつい。
先ほどの殺風景な場所と違い、高級かつセンスのある調度品に彩られた応接間といった感じだ。
絶妙なホールド感を維持するソファーに体を預け、二人の美女の接待を受けているのだが、いまだに本題に入らない。
ここってぼったくるのバーじゃないの?あとからトロールが出てきてカネヨコセとか言うんじゃ?
そんな心配を悟られないよう俺は強気を装い、ずいっと身を乗り出し、こう切り出す。
「話を聞こうか」
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とある世界で魔物が増えすぎ、それを退治するために別の世界から勇者という名の人材を派遣する。
あるいは慢心した世界にカツを入れるため、悪の限りを尽くす雇われ魔王を送り込む。
ここはそういった異世界間の派遣を取り仕切る企業、「株式会社 天界総業」というらしい。
二人は異世界の間を取り持つアドバイザーという立場。
教会に降り立っては「勇者なんとかによって世界は救われるでしょう!」と啓示をしたり、そのなんとかに高性能な武器や防具を与えて有利に戦えるよう仕向けたり、弱点はここ!みたいな感じでこっそり教えたり。
いわゆる女神?でいいのか。
「このバカが勇者に渡す神器を勝手に持ち出して、あろうことかお茶をかき混ぜるティースプーン代わりに使ったのです。お茶の味がよくなるという話を真に受けて」
「そこからどうつながるのです?」
「わたしがそのスプーンをうっかり落としました!」
今度は金髪が答えた。しかも明るく。金髪はライトブラウンより見た目も中身もずいぶんと幼い感じがする。山脈だけは大人だ。
スプーンは自由落下の後、床の上で数度跳ね、三回転ほどひねりを入れつつ事務所の窓を突き破って「下」へ落ちたという。
「本来であればエリーシャ・オリバーの手元に行くはずだった聖剣「マキシマムホーリーブレイド」があなたの脳天に突き刺さりました」
それ誰?何それ?というか。
「突き刺さった?俺死んだの?」
「いいえ、死んではいません。むしろ不死に近い力を得ているはずです」
ライトブラウンが何か書かれたボードを持ってきた。
「これを叫んでもらえますか?」
「えー。いやですよ」
「どうしても確かめなければならないのです」
ライトブラウンが頭を下げる。
「それじゃ一回だけですよ」
「悪を切り裂け!聖なる刃マキシマムホーリーブレイド」
どこからともなく聞き覚えのあるBGMが流れ、俺の体が光って、強制的に体が動く。
真っ白になっていた目の前が元に戻る。
ずいぶんと視界が広くなり、四隅になにやら数値がちらちらと見える。ヘッドアップディスプレイのようだ。
金髪がニコニコしながら姿見を用意した。その後ライトブラウンに笑うんじゃないとばかりにおしりをはたかれていたが。ちなみに安産型だ。
俺は姿見に映る自分の姿に驚愕した。
「どこの宇宙刑事だよ!つか聖なる剣と関係ないだろ!」
そこには銀色に輝くメタルなスーツに身を包み、決めポーズを取る中二病患者が立っていた。