四話
内山がどうやって転んだか見ていなかった金田は動揺した。
「かずくんが撃たれちゃったよぉ・・・」
「違う、転んだだけだ!」
犯人は内山の転んだ音で更に気が立ってきた様子。
銃口をこっちに向けて叫んだ。
「何やってやがるんだ小僧ら!撃つぞ!」
その声に隅っこで泣いていた青いTシャツを着た男の子が更に大きな声で泣き出した。
「うるさいぞ!お前も撃つぞ!」
危機感を感じたのか、店員が勇気をふるって犯人に声をかける。
「ちょ、ちょっと待って下さいよ。まだ子供なんですよ・・・。」
この店員は20代前半くらいの男性で案外度胸があるようだ。
「あぁ?だったら早く金を用意しろよ!早くしないとこの小僧を撃つぞ!」
犯人はレジの方へと戻り始めた。
それを見た森山は内山の様子を見に行こうとしたが、その行動に驚いた金田は引き留めた。
「何するの?」
「内山の様子を見に行く。」
「今動いちゃだめだよ。」
「だって内山動いてないぞ。大丈夫かな・・・やっぱ見てくる。」
犯人に気づかれないように抜き足差し足・・・だったが、不運にも転がっているミニカーを蹴とばしてしまった。
ミニカーは転がって別のカウンターへ勢いよくぶつかる。
その音が犯人の耳に入ったのは言うまでもない。
再びこちらに向かいながら今にも撃ちそうな形相で森山に銃を突きつけてきた。
「あ!やばい、どうしよう。」
「おい!逃げようとしたな!」
「ち、ちがうよ。友達を見ようと・・・」
「覚悟しろよ!ガキだろうが容赦はしないぞ!」
犯人は彼の頭に狙いをつけて銃を構え、指を引き金に添えた。
森山は思った。
「撃たれる・・・これで死んじゃうんだ。父ちゃん、母ちゃん、ごめんよ。」
そしてものすごい銃の音が何回か鳴り響いた。
ところが、勢いよく倒れこんだのは犯人の方だ。
「あれ?」
この状況に一瞬呆然した森山だったが、すぐに呑み込めた。
後ろから来た覆面警官が発砲した銃弾に倒れたのだった。
「痛てぇ!ちくしょう!」
肩に当たり倒れこんだ犯人は、致命傷こそ負わなかったが痛さに錯乱し、倒れたまま銃口を青いTシャツを着た男の子に向けた。
それに気づいた店員は男の子に覆いかぶさる。
再び散弾銃の音が店内に響いた。
銃弾は店員と男の子の後ろにあるカウンター上の模型に当たり粉々に吹き飛んだ。
2回目の発砲をしようとしたが、その隙を見て覆面警官2人が犯人を押さえつけた。
警官は犯人をうつ伏せにし、後ろに回した手に手錠をはめ、何やら言いながら犯人を起こし連行していった。
店員は隙をみて警察に連絡をしていたようだ。
彼の機転によって大事に至る事はなかった。
ほんの一瞬の出来事に森山や金田は呆然とし、暫く恐怖感が抜けなかった。
ミニカーに埋もれていた内山も失神していただけで怪我は無く、警官に支えられて起き上り、正気を取り戻したようだ。
それぞれの両親が来るまでの間、彼らと店員、青いTシャツの男の子の5人で、現場での事情聴取をする事になった。
通常は署で行うものだが、現場検証も兼ねる事になり、とりあえずカウンターへ座らされた。
聴取が始まり、彼らも少しずつ落ち着きを取り戻してきた。
暫くして青いTシャツの子も泣き止んで状況を話し始めたが、なぜか内山の方を気にしているようだ。
ちらっと内山の顔を見ては俯き、その動作を繰り返している。
その様子を不審に思った警官は尋ねた。
「ぼく、彼がどうかしたのかね。」
「・・・」
「何か言わないと分らないよ、ぼく。」
内山の方を見て
「内山君と言ったね、この子とは知り合いかね?」
「ううん。会ったことありません。」
警官はとりあえず事情聴取に戻り、暫くして現場検証もほぼ終わった。
そろそろ両親が迎えに来る頃だ。
森山と金田もまだ恐怖が抜け切れていない様子。
「怖かったなぁ、金田。」
「うん、よっちゃん撃たれるかと思ったよ。」
「ああ、ほんとに撃たれるかと思った・・・。」
「でも、あの銃声は凄かったよね。2発も撃ったよ。」
「違うよ、3発だよ。」
そうこうしているうちに、彼らの両親が迎えに来て、それぞれの無事を確認した。
Tシャツの男の子も両親に会えて安心した様子だったが、内山の方を見て何やら呟いている。
内山を指差して店員に言った。
「あの人、ミニカー盗んだんだよ。ぼく見たもん。」