三話
「それって、ミニカーじゃん。・・・あれ?値札ついてるよ。それもってきちゃったの?・・・だめだよ、かず君!」
「だって、このミニカー、弟が欲しがっていたから・・・どうしよう。」
「えー、どうしよう。」
森山もびっくりした。
「どうすんだよぉ。見つかったらすごく怒られるぞ。」
3人とも思わぬ事態に対処しきれず、暫く入口あたりでうろうろした。
内山は事の重大さに気付いたのか、力が抜けて座り込んでしまったようだ。
金田もパニクっていたが、自分なりに何とかしなければいけないと必死に考えた。
このまま知らん顔しても、ずっと悩み続けるかもしれないし、返しに行っても親や学校に知れてしまい、すごく怒られる事は間違いない。でも自分が盗ったんじゃないから、大丈夫かもしれない。
葛藤の末、決断して内山に話しかけた。
「かず君、やっぱり返しに行こうよ。一緒に謝るからさぁ。」
森山も。
「そうだよな、返したほうがいいよな。」
2人は座り込んだ内山を宥めておもちゃ売り場へ引き返す事にした。
辺りを見回しながら恐る恐る売り場に入るが、何やら雰囲気が違うし、先ほどより静かだ。
ミニカーの積んであるワゴンに近づいた時。
けたたましい音とと共に、複数の女性や子供の叫び声が聞こえた。
3人はその音に驚いて立ち止まった。
「びっくりしたぁ。なに?この音は・・・」
どこかで聞いたことのある音だ。
散弾銃?
金田は頭の中では否定したかった。
3人に不安が走る・・・。
ミニカーの積んであるワゴンを過ぎて、暫く進むとモデルガンのコーナーがあり、そこを左に曲がるとレジがある。
そのコーナーの角から人の後姿が見え隠れし、何やら揉めているようだ。
「早く金を出せ!」
その大きくドスの聞いた声に再び悲鳴が上がった。
先ほどの散弾銃の効果もあり張りつめた空気が流れている。
3人は何か恐ろしいことが起こっている事に気づいたようだ。
こんな出来事は映画でした見た事が無いし、まさか自分が巻き込まれるなんて想像もしていなかったであろう。
彼らはワゴンの片隅で固まってしまった。
「ご・・・強盗だ、金田!」
「だめだよ、しゃべっちゃ・・・。」
直立不動のまま微かに震えながら、掠れた声で会話が始まった。
「なんでおもちゃ売り場に来るんだよぉ。普通は銀行だよぉ。」
「知らないよぉ、そんなの。僕に聞かないでよ、よっちゃん。」
「きっと子供を人質にするんだ・・・。」
「そうだよ・・・あそこに座っているのは人質だよ。子どもばっかりだよ。」
「逃げると銃で撃たれるかも。」
「撃たれると痛いかなぁ・・・。」
「ばか!撃たれたら死んじゃうんだぞ。」
次第に話し声が大きくなってきた。
内山は相変わらず固まったまま何も話せない状態で、ミニカーの事はすっかり頭から消えてしまっていた。
それが当然だが、この2人の会話は止まらなかった。
「映画撮影かも知れないぞ。」
「でもさっきの銃の音はすごかったよ。」
犯人が叫んだ。
「おい!静かにしろ!そこの小僧!」
気付かれたようだ。
野球帽に黒のサングラス、白いマスク。その風貌はまさに強盗犯だ。
右手の散弾銃はレジの方角へ向けたまま、命令口調で話し始めた。
「おい、そこの小僧!今行くからな・・・。動くなよ。おい、お前も金を早くこの袋へ入れておけよ!わかったな。」
レジの店員にも睨みを利かせ、釘を刺すように命令した。
こちらからはコーナーが邪魔になってレジや店員の様子はわからないが、金田はなぜか周りやレジの様子も気になり、きょろきょろし始めた。
あちこちに座り込んでいる人達がいるようだ。
レジ近くには、赤いワンピースの女の子、向いのプラモデルのコーナーには、青いTシャツを着た男の子が泣いている。
まだ低学年らしい。
金田は思った。
「まさかあんな小っちゃい子は撃たないよな・・・。」
きっと店員さんも怖がっているよなぁ。
お金をあげちゃうのかなぁ・・・。
おもちゃ売り場じゃあんまりお金は無いと思うけど、なんで・・・?
金田がいらぬ心配をしていると、強盗犯が右手に散弾銃を持ったままこちらに向かって来た。
まだ気になるレジを覗こうと、きょろきょろする金田を見て犯人が怒鳴った。
「なに見てんだ!お前!」
「ご、ごめんなさい!」
間近で怒鳴られたのを見てびっくりした内山は、慄いて後ずさりした。
そこにはミニカーの山積みされたワゴンがあり、背中から覆い被さるように倒れ込み、ワゴン諸共ひっくり返った。
ものすごい音と共に積み上げられていたミニカーが内山の上に土砂のごとく降り注いだ。
「ひゃ~!痛い・・・。」
「お、おい、内山、大丈夫かぁ!・・・。」
森山は思わず声を掛けたが金田は勘違いした。
「あぁぁ、かず君が撃たれたぁ・・・。」