二話
「ねえ、いまから竹菱百貨店へゲームしに行こうよ。」
内山は2人を誘った。
「今から?・・・どうしようかなぁ。」
金田は小遣い少なくなっているのが分かっていたので、ちょっと迷ったが行きたい気持ちが勝っていた。
ポケットを覗いて小銭を確かめたが、なんとかゲームを1、2回やるくらいはあるようだ。
3人は家に自転車を取りに行き、百貨店へ向かった。
竹菱百貨店は自転車で5分くらいの所にある。
学校の脇の川沿いを北へ暫く走ると、電車の高架下のトンネルが現れる。
そのトンネルを潜ると、一転して繁華街の様相になる。
金田は森山の自転車を見て驚いた。
「あれ?よっちゃん自転車替えたの?なんかかっこいいじゃん!」
「おう、前の自転車のギヤーが壊れたんだ。」
「5段変速?」
「そうだよ、欲しかったから父ちゃんに頼んだら買ってくれたんだ。」
自転車にもギヤーチェンジが付いている。
ギヤーチェンジが無いのは幼児用か婦人用。
今時は3段変速から5段変速が普通である。
彼らの移動手段は殆どが自転車であるため、坂道や砂利道などのあらゆる場所に行くにはギヤーチェンジを駆使しなければならない。
自転車の性能によって行動範囲が決まると言ってもいいくらいだ。
彼らは2~3時間ぐらいかかる所でも平気で行く行動力がある。
竹菱百貨店に着いた3人は、早速エレベーターで屋上のゲームコーナーへ向かった。
ゲームコーナーで3人がまず向ったのは、パンチングマシーンである。
パンチングマシーンは非常にシンプルで、ボクシングのパンチングボールを叩く強さを競うゲームである。
体が大きいか、喧嘩が強いとパンチ力も強いものだ。
森山は体が大きく、基本的に力はある。
「まずオレからだ!」
手を力強く握りしめ、拳に息を吐くと、右後ろに体を回し、思いっきりパンチングボールを叩いた。
「せ~の!おりゃ!」
パンチングボールは、音をたて勢いよく跳ねあがり、上部にあるセンサーへ当たった。
デジタル数字がぐるぐると回り始め、78で止まった。
「おぉ!」
皆の歓声が上がった。
金田はこの数字をみて密かに思った。
このパンチに殴られたら痛そうだ・・・
「次は金田だぞ。」
「よし。」
パンチングマシーンではいつも森山に負けていた。
何時までも負けているわけにはいかない金田は、渾身の力を振り絞ってボールを叩いた。
「こんにゃろ!」
掛声だけは凄かったが、バランスを崩し、ボールを少しかすっただけ。
ボールはくるくる回っているのみ・・・。
さらに、下が濡れていたせいか、バランスを崩し、思いっきり後ろへ転んでしまった。
「痛て!」
あまりに可笑しな姿に内山と森山は笑い転げた。
パンチングマシーンで遊んだ彼らは、定番のおもちゃ売り場へ下りた。
まず向ったのは、モデルガンのコーナー。
金田と森山は大の西部劇ファンなのだ。
ケースに並べられているモデルガンを見て目が輝き始め、金田はケースの中の一つを指差して言った。
「うわー、かっこいいなぁ、よっちゃん。やっぱコルトが一番だね。」
「ああ、ガンマンの早撃ちはシングルアクションを使ってるんだよな。」
「カレント・イーストウッドが持っていたのはコルト・フロンティアだっけ?」
「そうだよ、アウトローで使っていたやつだ。」
突然、2人はなにか思い出したように黙り、妙な動きをし始めた。
向き合ったまま、ゆっくりと後ろへ歩き、右手を腰のあたりまで下げた。
金田はガンベルトのフォルダのガンを素早く取り出す真似をした。
「カチャ、バーン!」
「う、やられたぁ・・」
彼らは空想の世界に入っていった。
西部劇ごっこを楽しんでいたが、森山は内山がいない事に気がついた。
「あれ?内山は?」
「きっと別のコーナーに行ったんだよ。探そうよ。」
「おう、そういえば内山はミニカーが好きだったから、ミニカーのコーナーかも。」
2人はミニカーのコーナーへと足を運んだ。
竹菱百貨店のおもちゃ売り場は結構広く、品数も豊富で、子供たちにとって人気の場所になっている。
屋上のゲームコーナーで遊んで、おもちゃ売り場へ行くのが正道なのだ。
ミニカーのコーナーについた金田たちは、ガラスケースの中のミニカーを覗いている内山を見つけた。
「いたいた、おーい!う~ち~や~まぁ~。」
売り場中の聞こえる森山の声に金田はびっくりした。
「う、でっかい声!はずかしいじゃん。」
内山は何か考え事をしていたのか、驚いたようにこちらを向いた。
「なんで勝手に行っちゃうんだよう。」
「あ、ごめん、ごめん。ちょっとミニカーが見たくなっちゃって・・・。これこれ、この赤のスポーツカーいいよね。」
内山は何か気を逸らすかのように、ケースの中のミニカーに話を向けた。
「そうかなぁ。おれはこっちのトラックの方がいいなぁ。おらおら!道をあけろぉ、おれはトラック野郎一番星だぁ!・・・なんちゃって。」
金田は密かに思った。
“よっちゃんってやっぱりこっちの系統かな・・・妙に似合ってるし・・・”
「僕は、この白と赤のF1レーシングカーがいいな。」
レーシングカーに話になって、内山は得意気な顔に変わった。
「知ってる?F1レースってコースを何百週も回ってタイムを競うんだよ。」
「へ~、そうなんだ。じゃあドライバーはすごく疲れるね。」
「そうだよ、でもドライバーの腕やレーシングカーの性能だけじゃなくて、チームワークも良くないと勝てないんだよ。」
「ふ~ん、よく知ってるじゃん。かず君すごいな。」
F1の話で盛り上がった。
暫く聞いていた森山だったが、つまらなさそうな顔をして言った。
「そろそろ帰ろうぜ、金田。」
「うん。」
2人はコーナーを出ようとしたが、内山はミニカーが山積みされたワゴンのあたりでなにやら覗き込んでいる。
「何やってんだよ。内山いくぞ!」
「ごめん、ごめん。」
そう言って2人のもとへ駆け寄ってきた。
「そんなにほしけりゃ買えばいいじゃん。」
「だって・・・」
内山は俯き無口になった。
店を出たところで、内山の様子がおかしいことに気がついた金田。
「かず君、どうかしたの?」
内山は、ポケットをもぞもぞさせ、俯いたまま何やら取り出した。
それを見た金田は驚いた。