二話
紙芝居の道具を手際よく片付けると、次に様々な大きさの板を取り出して、また何やら組み立て始める。
その速さたるは、目を見張るものがある。
子供たちが帰ってしまわないうちにセッティングしなければならないからだ。
なにをセッティングするかって?
当然、子どもたちに駄菓子を売るための屋台づくり。
しばらくして準備が出来ると、また拍子木を打ち始めた。
すると、散らばっていた子供たちは、また自転車の前に集まって来た。
ポケットの中のジャリ銭を探しているうちに、地面にお金をばら撒く子が必ずいるものだ。
それを拾って
「やったー!もうかった!」
「返せよ!このやろー!」
などという出来事は、紙芝居の前では何時もの事である。
金田もお金を出し、屋台に並んだ駄菓子を眺め
「今日こそは、絶対成功させてやる!」
と気合満々である。
金田が意気込んでいるのは、紙芝居でつきものの「カタヌキ」だ。
2~3センチくらいの板状の物に様々な形の絵があり、その輪郭が溝になっているお菓子である。
その溝に沿って壊してき、最後にその絵だけを残すというもので、簡単な形のものから難易度の高いものまで色々あり、その出来具合によって賞品に格差が出るのだ。
出来なかった場合には悔しくて、ほとんどの子は食べてしまう。
精糖が原料で、ほんのりと甘く歯ごたえはあるが、子供たちは何で出来ているかは解っていなだろう。
「おじさん、これやってみる!」
当然、一番難易度の高いカタヌキを手にした金田に対して、おじさんはいつもの調子で激を飛ばした。
「おお、がんばれよ。10円だよ。」
調子のいい声に気持ちが高揚した金田はつい調子に乗った。
「見てなよ、これ出来たらオマケに1枚ちょうだいよぉ。」
「ははは、よし乗った!今回だけだぞ。」
「やったー。」
「まあ、がんばれや。」
金田は儲けた気になり、調子にのった。
カタヌキを始めるには、どこか安定した場所が必要だ。
砂場を囲んでいる石畳に腰をかけ、さらに安定させるため砂に足を埋めた。
準備完了。
「よし、ここからだ。」
カタヌキはまず簡単なところから始めるものだ。
動物の首のように細いところは後回し。
カタヌキ全体を左手の親指と人差し指で軽くつまみ、右手の爪先で少しずつ壊していく。
少しでも絵の部分が欠けてしまったらアウト。
金田は慎重に進める。作業中はほとんど息をしていないように感じるが、時々我にかえり深呼吸をする。
「ふぅー、ここまではなんとかなるんだけどなぁ。」
大まかな所は抜くことが出来たが、首の細い所から先3分の1程度が残っている。
此処からが肝心である。首の周りから崩していくと、頭の周りを崩すときに首が折れてしまう。
頭からだ。そして最後に首の周りを制覇するシナリオが金田には出来ていた。
完全に自分の世界に入り込んだ金田には、周りの音は聞こえていないかもしれない。
たかがカタヌキだが、彼にとっては人生を賭けたゲームでもあるのだ。ちょっと大げさか。
頭の回りは完全に抜いた。残るは一番細い首の部分。さてどうする。
金田は息を呑み、首が折れないように左手の親指と人差し指で軽く挟む。
いよいよ最大の難関であるその部分に指をかける。
(よし、いける!)
「おい!金田ぁ!」
背中から聞き覚えのある声がした。
びっくりした金田は思わず振り返った。
(カッちゃん!?)
その瞬間、指の間から妙な違和感のある感触が伝わった。
ペキ!
「え?」




