五話
帰りは日差しを避けるために、川の東側の木々が植えてある堤防沿いを走る。
風も無く、なま暖かくどんよりした陽気で、雨が降る様子でも無い。
「暑い~、蒸し蒸しするなぁ。金田ぁ~。」
「暑いのはわかってるよ、よっちゃん・・・。まこと君も大丈夫?」
「大丈夫さ・・・でもすごく暑いな。」
「そのわりに汗が出てないな、マコト。さすがタフだな。」
「そうでもないさ、なんか今日は調子が出ないなぁ。」
一行は長くつづくアスファルトを抜けて川沿いの道に入った。
距離にして残り3分の1程度だがいつもより皆は疲れきっているようだ。
「もう少しで橋だ。がんばろうぜ、金田。」
「うん・・・。あれ?陽が出てきたよ。」
「本当だ。」
木々から漏れる陽射しが内側を走っている森山に直撃し始めた為、彼は陽射しを避けようと外側に移動してきた。
「なんだよ、よっちゃん、急に寄って来るなよ。狭いなぁ・・・」
「ごめん、マコト。陽が暑いんだよ。」
しょうがなく夏木は内側へ移動した。
それを見ていた藤田は何かを察知したかのように叫んだ。
「マコト、気を付けろよ。」
「なんだよ急に・・・。みんな変だぞ。」
そろそろ例の橋が見えて来る頃だ。
「よかった・・・もうすぐだ。」
金田は橋が見えた事で少し安心したが、その瞬間・・・。
「あ!まこと君!」
夏木は足を滑らせ、堤防を転げ落ちた。
「うわー!」
慌てた金田も同じように足を滑らせた。
「あわああ・・・痛っ!」
転げることはなかったが、背中で滑り落ちた。
森山も足元に気をつけながら堤防を降りようとした。
「おい!マコト、金田、大丈夫か?今行くからな!」
かなりの急斜面の上、雑草が一層滑りやすくしている。
「どわぁ~!」
やはり森山も滑り落ちた。
金田のペースに合わせ遅れていたため、他の集団はずっと先で呼ぶ事が出来ない。
残るは藤田だけだ。
「おーい、大丈夫か?」
心配そうに下を見るが、降りようとすれば森山の二の舞だ。
「痛えなぁ・・・。金田大丈夫か?」
「びっくりしたけど大丈夫。・・・でもまこと君が足を怪我したみたいだよ。」
足を抱えて痛そうにしている。
「マコト、足をひねったのか?」
「ああ、足首が痛い。捻挫かな・・・。」
「こりゃ大変だ。おーい藤田!だれか呼んで来てくれよ。マコトが怪我したんだよ。」
「え?そうか、わかった。急いで呼んでくる!」
「金田、おれも誰か呼んでくるからちょっと待ってろよ。」
森山はそう言って堤防を登り始めた。
ガサガサ・・・
「ん?なんの音?」
森山は足を止めた。
「おい・・・なんだよ。なんかいるのか?」
「あの橋の下あたりで聞こえたよ。まさか・・・。」
「蛇なんて言うなよな、金田。」
ガサガサ・・・
「ほら、また聞こえた!だんだん近づいてるよ。」
「そ、そうだな・・・何かいるみたいだぞ。」
「どうする?よっちゃん。」
「どうしよう・・・。」
「よっちゃん、昨日は捕まえてやるって言ってたじゃん。」
「そうだっけ・・・。」
「でも蛇の音にしてはちょっと大きくない?」
そのうち音は更に大きくなり、茂みの中から大きな影が近づいてくるのがわかったが、
夏木を置いて行けない2人は、あたふたするばかりだ。
その音は止まることなく近づいてきた。
「くそ!こうなったら本当に捕まえてやる!」
「大丈夫なの?」
「ああ、何とかなる・・・。」
「・・・」
金田は思った。蛇と格闘出来るのはよっちゃんぐらいだと・・・。
そのうち影は目の前まで迫ってきた・・・。
バサ、バサ、バサ・・・と音がした次の瞬間!
「あ!よっちゃん!危ない!」
「ぎょ!」
バサバサ!
藪からものすごい勢いで飛び出してきた。
「出た~!」
森山はひどく驚いたが、飛び出してきたのは蛇ではなかった。
助けを呼びに行ったはずの藤田だった。
「なんだよ!脅かすなよな、藤田ぁ~。蛇かと思った~。」
「ごめん、よっちゃん。向こうに階段があったから見に来たんだよ。ちょっと怖かったけど。」
「え~、それじゃ誰も呼びに行ってないじゃん。どうすんだよ。」
「3人で運べば大丈夫だよ。」
「ん~、それもそうだな。」
「それよりマコトは大丈夫か?」
「捻挫したみたいなんだ。」
「そうか・・・今日はなんか嫌な予感がしたんだよ。」
「藤田は感がいいからな。霊感があるんじゃないか?ひょっとして幽霊が見えるとか・・・。」
「まさか!見えるわけ無いっつうの!」
「そうだよな・・・。ははは。」
「かっちゃん、よっちゃん、それより早くまこと君を運ぼうよ。」
「そうだな。どうやって運ぼうか・・・。」
「担架を作ろうか?」
「担架?材料になるものは無さそうだぞ。」
「ん~、じゃどうする。なんとか3人で担いでみる?」
「よしそうしよう。金田は頭、藤田は足。おれは体を支えるよ。」
3人は夏木を担ぎ始めた。
人を運ぶのは思ったより大変な仕事である。
「結構重たいなぁ、マコト。ちゃんと持てよ、金田。」
「よっちゃんこそちゃんと持ってよぉ。」
ふらふらしながらも歩き始めたが、3人は重大な事に気がついた。
この滑りやすい坂は登れない・・・。
「そう言えばかっちゃん、橋の向こうに階段があったって言ったよね。」
「そうだよ・・・。」
「来るときは大丈夫だったんだよね。蛇とかいなかった?」
「来るときはね・・・。」
3人は仕方なく例の噂がある橋の下の藪を通ることにした。




