四話
こういった話は何処にでもあるが、身近に存在するとちょっと怖い。
明日も走れるのか。
待ち合わせをした橋のたもとに戻ってきた3人は明朝の約束をして別れた。
金田は蛇の話が気になって仕方がない。
「ただいま~。」
「お帰りなさい、のど渇いたでしょう。冷蔵庫に麦茶が入ってるわよ。」
急いで冷蔵庫を開け、コップに注ぎ一気に飲み干した。
「ぷあ~、うまい!こんなうまい麦茶は初めてだ。」
「どうだったの?ちゃんと走れたの?」
「なんとかね・・・。でも始めてだから結構きつかったよ。」
「山田のおじいさんは来てたの?」
「来ていたよ。あのじっちゃんはすごいよ。何歳になるの?」
「お母さんはよく知らないのよ。お父さんが知っているかもしれないから、今度聞いてみたら?」
「うん。それより蛇の話って知ってる?」
「蛇の話って?」
「蛇河川の話だよ。」
「ああ、戦争の時あの橋の下で大勢が死んだ話ね。おじいちゃんがよく話していたわね。」
「へぇ、そうか、おじいちゃんは戦争を知ってるもんね。生きていたらいろいろ聞けたのにね。」
「そうね、でもあまり気にしない方がいいわよ。」
「そう言われても気になるよ。」
「そんな事より、もうすぐ学校へ行く時間よ。早くご飯にしなさい。」
森山が言った通りご飯がめちゃくちゃ美味しかった。
「よぉ、金田~。調子はどうだ?」
「あ、よっちゃん、おはよう。」
「足は大丈夫か?」
「ちょっとふらふらする。」
「今日も部活あるからな。きついかもね。」
「本当だよ。よっちゃんは大丈夫?」
「当たり前だのクラッカー!」
「さすが、怪物よっちゃんだ。」
「ところで朝飯うまかったろ。」
「めちゃ美味しかったよ。山盛り2杯だよ!」
「そうだろ、そうだろ。言った通りだろ。」
「明日も頑張ってみるよ。」
「おう!がんばろうぜ。明日はマコト(夏木誠)も誘ってみるよ。」
翌朝、4人はいつもの橋のたもとに集まった。
風が無く、妙に肌寒い曇り空。
「おはよう、よっちゃん。」
「おう、金田。今日は陸上部四天王の集合だな、マコト!」
「何が四天王だよ。朝っぱらから、なんでこんな元気なんだ。」
朝からハイテンションな森山に夏木は呆れ顔だ。
「よっちゃんはいつもそうだよ。マコト君。」
「森山らしいな。」
森山のいつもの調子に皆も目が覚めてきたようだ。
だが、藤田だけは今日の天気に何かを感じたのか、じっと空を眺めている。
「どうしたの、かっちゃん。空ばっかり見て。」
「う~ん、なんか気になるんだよ、この天気。雨が降るわけでもないし・・・。」
「そう言えば、かっちゃんは天気に敏感なんだよね。」
「なんか嫌な予感がするんだよ。」
「え~そうなの?変なこと言わないでよ。気になるなぁ。」
金田はまた不安になってきた。
「おい金田、大丈夫だよ。気にしすぎだぞ。気が小さいなぁ。」
「いいじゃんか、どうせよっちゃんと違うし。」
「何もないさ。」
「そうだといいけど・・・。」
暫くして金田は山田のじっちゃんが居ないのに気がついた。
「よっちゃん、まだ山田のじっちゃん来てないよ。」
「そうだな、いつも先に来てるはずなんだけど。あの人に聞いてみるか。」
森山は集まっているランナーの一人に尋ねた。
「すみません、今日は山田のじっちゃんは来ないんですか?」
「何も聞いてないけど・・・。そう言えば遅いな。いつもはとっくに来ているはずなのに。」
「何かあったのかな?。連絡取れませんか?」
「皆、電話番号も知らないんだよ。」
皆、じっちゃんの事が気になりながらも、取りあえず走る事になった。
昨日と同じ浜公園までのコースだ。
「よっちゃん、帰りはまた堤防を走るのかな?」
「多分・・・そうだな。」
「行きは良い良い帰りは怖い・・・なんてコトワザ無かったっけ?」
「なんだそりゃ。それは『とうりゃんせ』だろ。大丈夫か?金田。」
「いや、大丈夫じゃないかも。」
「よっぽど蛇が嫌いなんだな。」
「そうなんだ・・・。」
「大丈夫だよ。滅多に出ないよ。」
「でもこれから毎日走るんだから、出る可能性もあるよ。」
横で走っているマコトも金田の不安げな顔に思わずフォローをした。
「走って逃げりゃ追いつかないさ。みんな陸上部だろ。」
「そうだよね、まさか人間より速って事は無いよね。」
「当たり前だろ!」
「よっし、蛇に会ったら真っ先に逃げてやる。」
「金田の逃げ足だけは誰にも負けないからな。去年の肝試しなんか、一番先に逃げ出したけど誰も追いつかなかったからな。・・・あれはむちゃくちゃ速かったぞ。」
「そうだっけ?」
途切れ途切れの会話をしながらも、一行は浜公園までたどり着いた。
金田は公園の芝生に寝そべって空を見たが、今日は相変わらずどんよりした曇り空だ。
あれから藤田も黙ったままだ。
不安は一向に消えないまま、帰りのコースを走り始めた。




