三話
川沿いに北へ数百メートル走り、3つ目の交差点を左に曲がり橋を渡る。
そのまま走り4つ目の交差点を右に曲がると、浜公園までの真っすぐな道が数キロ続くのだが、この道が単調で長く思えるコースになっている。
やはり思ったより山田のじっちゃんのペースは速い。
半分も行かない所で息を切らしている金田を見て森山は声を掛けた。
「金田、大丈夫か。少しゆっくり走ったら?」
「だ、大丈夫だよ・・・。普段走って無いから・・・すぐに慣れるよ・・・。」
「そうかぁ・・・。」
金田は始めた事をちょっと後悔しながらも走り続け、なんとか浜公園まで辿り着いた。
皆、息を切らしている中、山田のじっちゃんは体操を始めた。
「はぁはぁはぁ・・・、きつい!」
「はぁはぁ・・・、そうだろ。でもじっちゃん見てみろよ。ぜんぜん息が切れてないぞ。」
「ほんとだ、人間じゃないよ。はぁはぁはぁ・・・。」
「おいどうした、ヨシ!もうへたばったか?」
「そんな事ないよ、じっちゃん。はぁはぁ・・・。」
「だいぶ息が切れてるぞ。さては怠けてたな。」
「そんな事ないってば。じっちゃんが超人なんだよ。」
「はっはっはっ、超人なんかじゃないさ。毎日鍛錬してるからだよ。」
「それにしてもすごいな。」
「継続は力なり、だよ。」
浜公園は海岸のすぐ近くにあり、休日には家族連れやアベックが遊びに来る、ちょっとしたレジャースポットだ。
もちろん平日の朝早くには誰もいない。
金田や森山、藤田にとって、遠くに聞こえる波の音や潮風がとても新鮮に思えた。
疲れてはいるが、さわやかな汗と湧いてくる力を感じながら、青白い空を眺めていた。
しかし、これから波乱が起きようとしていた。
暫く休憩をした後、再び走り始めた。
帰りは途中から川沿いの堤防を走るが、もちろん舗装はされていない。
堤防からはすぐに川へ下りる事ができる。
さて、実はこの川が曲者である。
この川は通称“蛇河川”と言われ、文字どおり蛇がよく出没する事から付けられた。
堤防を横切ることも少なくない。
金田はその噂を思い出した。
「ねえ、ここって蛇がよく出るんだよね・・・。」
「そう、この前もうちの学校の生徒が見たってさ。すごく大きなやつだって。」
「大きいって、どのくらい?」
「2mぐらいだってよ。」
「えっ!?そんなにでっかいの?」
「スピードもあるみたいだぞ。ここの主って噂だ。」
それを聞いていたランナー達は揃って回りを気にし始めた。
気にし始めると、ちょっとした枝も蛇に見えたりするものだ。
中にはふざけて、「ほら、あそこに蛇が・・・」なんで脅かす奴も出てくる。
山田のじっちゃんはそんな雰囲気に活を入れた。
「おいみんな!ちゃんと走らないと練習にならないじゃないか。ヨシも変な噂を流すなよ。」
「ごめん、じっちゃん。」
「すぐ下は川なんじゃから、集中して走らないと怪我の元になるんだぞ。」
“そうだよなぁ、踏み外して川に落ちて、例の蛇にでも出くわしたらヤバイよなぁ・・・
気をつけて走らないととんでもない事になりそうだ。“
不安そうな金田を見て森山は
「おい、金田、なんかビビってるな。」
「そりゃそうだよ。そんなこと聞かされたら誰でもビビるよ。」
「ははは・・・大丈夫だよ、そんなに簡単に出くわさないよ。」
「そうかな・・・。」
「怖がりだなぁ。」
金田はの不安は更に増してきたようだ。
堤防沿いの道は自動車の行き来は少なく安全だが、蛇に襲われるような別の面の危険性が高いのだ。
「ねえ、よっちゃん。もし蛇に出会ったらどうしよう。」
「ん~、そうだなぁ・・・。つかまえてやるさ。」
「どうやって?」
「当然、手に決まってるだろ。」
「噛まれるかもしれないよ。毒があったら死んじゃうかも。」
「大丈夫だよ、こんな所にいる蛇なんて毒があっても弱いさ。」
「ふ~ん、そんなもんかなぁ・・・。」
堤防沿いの道はかなり長く感じたが、どうにか舗装されている道路に戻ってきた。
その道路の堺には五郎橋という有名な橋がある。
先頭の山田のじっちゃんはこの橋のたもとに差し掛かった。
「そろそろ到着だな。この橋にもちょっとした云われがあるんじゃ。知っとるか、ヨシ?」
「知らないよ。なに?」
「戦時中に大勢がこの橋の下で死んだんじゃ・・・。爆撃の熱を避けるために川の中に集まったんじゃが、そこにも爆弾が落ちてな・・・。さっきの蛇の話もあながち関係が無いとも言えんのじゃ。」
「関係って?、なんか怖い話だな。」
「蛇はその時に死んだ人たちの生まれ変わりだという噂を聞いた事がある。」
「ええ?そんな話聞いたら走れないよ。じっちゃん。」
「ああ、悪かった。わしも余計な事を言っちまったな。でも蛇が出てもいじめるんじゃないぞ。」
「わかったよ。」
出発地点に戻ってきたランナー達は、ストレッチの後、おのおの解散し始めた。
それに変な話を聞いてしまった3人は、行きの爽やかさと裏腹に気持ちがブルーになっていた。
さっきの話が頭から離れないようだ。




