一話
あまり本を読んだことがない上、初めて書く小説ですので、下手でで稚拙な文章もありますがご容赦ください。
玄関を開けた瞬間、あたたかい風が頬をなでる季節になると、彼はやってくる。
カラカラ、コトン・・・
公園で遊んでいた子供たちが一斉に駆け寄ってきた。
「あ!来た来た・・・。」
自転車の荷台に積んでいるのは紙芝居。
そう、紙芝居のおじさんである。
いつもなぜかスキー帽をかぶっていて服装も上下灰色と決まっている。
金田は幼なじみのカッちゃんを呼びに、向かいの家に急いだ。
インターホンを押し、早く出てくれないかとそわそわするが、出てくるのはいつもおばあちゃん。
このおばあちゃんはいつも落ち着いていて、言葉もゆっくり、行動もゆっくりなのだ。
「ああ、マーちゃんかね。」
「カッちゃんいるぅ?」
「カッちゃん?・・・あああ、どうだったかいねぇ・・・」
いつもの超ゆっくりした調子のおばあちゃんに、金田はそわそわしてきた。
「はやく!はやく!紙芝居が始まっちゃうよ。」
そこへ救世主のように現れたのが、カッちゃんのお母さん。
「ああ、まーちゃん、ちょっと待ってね!」
お母さんが現れたので、おばあちゃんは何事も無かったかのように、そろそろと奥へ行ってしまった。
ところで、彼の名前は金田正信、通称“まーちゃん”。
小学4年生で成績はふつう、運動もふつう。
たったひとつの特技は、土壇場の強さだ。
その意味は後でわかるのだが、そんな彼は人情豊かな下町で、多くの人たちと多くの友達に囲まれて成長してきた。
さて、カッちゃんを呼びに行ったお母さんは、行ったきり戻ってこないので、金田は更にそわそわしてきた。
「カン、カン、カン・・・」
あ!始まっちゃう!
この音はどこかで聞いたことのある音。そう、火の用心の拍子木と同じ音だ。
紙芝居のおじさんは、いつも紙芝居のはじまりにこの拍子木を鳴らす。
この音が聞こえると、辺りの家から続々と子供が飛び出してきて、ゆったりと流れていた時間が一変する。
紙芝居の周りは、ちょっとしたお祭りのように賑わい始める。
そういえば、カッちゃんとお母さんはどうしたんだろう。
暫くして戻ってきた。
「ごめん!ごめん!洗濯物を取り込むのを忘れていて。そういえば勝也ねぇ、少し前に出ていったっけ。ごめんね!まーちゃん!」
そう言って奥へそろそろと行ってしまった。
「え?なんだよ・・・早く言ってよ・・・。」
金田はちょっとムカっときたけど、怒る勇気がないので、あきらめて玄関を出た。
カッちゃんのお母さんはいつもこんな調子。おばあちゃんもだけど・・・。
幼馴なじみのカッちゃんの名前は、藤田勝也。
やはり勉強はそんなに出来る方ではないけれど、こと釣りに関しては誰にも負けない釣りバカ少年だ。
運動神経はまあいい方で、それに、なぜか天気に関しては妙に感がいいのが特徴だ。
そんなカッちゃんの家はかなり近く、道を挟んだ南側で、歩いて数十歩のところにある。
二人はいつも遊んでいた。
でも、もう一人とても仲のいい友達がいるのだが、そいつの出番はもう少し後。
とんでもない騒動と共に登場する事になる。
そろそろ紙芝居は始まるころだ。
カッちゃんがいなかったので、金田は仕方なく公園へ向かった。
といっても、玄関から三段跳びで到達してしまう距離だ。
さて、紙芝居の周りは、すでに近所の子供たちで賑わっていた。
紙芝居のおじさんは、荷台に取り付けられた木枠に紙芝居の用紙を差し込むが、いつも目に付くのが木枠。
古臭くネンキが入っていて、黒ずんでいる所や欠けている所があちらこちらにある。
それが何とも言えない雰囲気を出していて、紙芝居を盛り上げる演出の一つになっている。
そろそろ始まる雰囲気だ。
準備が出来ると、おじさんはまた拍子木を取り出し、打ち始めた。
一回目の拍子木は来たことを知らせる合図で、2回目が紙芝居の始まりの合図だ。
これがいつものパターン。
そして、いつもの調子で紙芝居が始まった。
前回「月光仮面」が悪い奴らにやられそうな所で終わったので、みんな真剣に見ている。
1枚めくり、2枚めくり・・・紙芝居は続く。
最後は必ず「さあ!月光仮面の運命やいかに!・・・」などど、期待を持たせる場面で括るのだ。
さすが紙芝居のおじさん、といったところだ。
紙芝居が終わると次なるイベントが待っている。
子どもたちは散開し、そのまま公園で遊ぶか家に帰る。
さて、ここから紙芝居のおじさんの本当の仕事が始まる。