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第十二話 ユイ

真貴は類子に告げる 

私はあなたがどんな生まれであろうと、あなたを守ります、と

 一連の話を聞いても、秀柾には京でどのようなことがあったのか理解が追いつかなかった。しかし確実なことは目の前の少女は理不尽に命を狙われているということだった。


「姉上、私は、今のお話は正直なところ分からないところがいくつかありました。しかし、ムメにはなんら落ち度はないのに命を狙われるということはわかりました。私はムメを守りたいと思います」


 真貴は正直で正義感に満ちた弟が頼もしかった。


 真貴は、秀柾にうなずいて類子に尋ねた。

「いままでほとんど何も話そうとしなかったのは、秘密を守るためだったのですね?」


「はい。話せば言葉で私が京のものとすぐに分かるので、人前でけっして話さないようにタツに教えられていました。加えて、どこから来た、なぜここに来たかを尋ねられれば、返事に困りますから、話せないふりをしていました」


 真貴は、類子がここにたどり着くまでを思った。


 この子の母親は、喜んでこの子を身籠ったわけではないだろう。それでも宿った命を愛し、そっと大切に育もうとしていた。ところが命を奪われた。辛い逃避行の末、最後の保護者を失い、自分の血を恨み、誰にも何も話さず、贄になるのが定めだと自分に言い聞かせるしかなかった類子の悲しみは、真貴が自ら贄に立った時の悲しみに通じるものであった。同時に、千年後の世界で龍口家の人々に愛され育まれた日々を思い出した。


 真貴は類子をまっすぐに見て言った。

「ムメ、類子……私はあなたがどんな生まれであろうと、あなたを守ります。どんなに身分の高い人であろうと、何の落ち度もないあなたの命を奪っていい理由などけっしてありません。あなたは私たちとこの里で生きて行く。私があなたの母であり、姉であり、師になります。私は、それが、龍神様が私に託した使命だと思います」


 類子もまっすぐに真貴を見ていた。

「私は……私は、ここで生きていてもいいんですね」

「そうです。私と秀柾がやからです。ひとつずつ、あなたの失ったものを取り返しましょう」


 類子は立ち上がり、真貴に抱きついてきた。真貴の頬が類子の涙で濡れた。


 類子が寝たあと、真貴と秀柾は窓から入る月明かりの下で今後の策を練った。

 朝廷の奥深くに元凶がいる以上、正義に訴えても何も変わらない。真貴の結論はひとつだった。


「類子は――死んだことにするしかない」


 秀柾も深くうなずいた。

 しかし、類子が死んだことにするのなら、新たに“ムメという少女の素性”を整える必要がある。二人はムメを“相模国の豪族の娘”とすることにした。訳あって母とともに上越の縁者を頼って旅をしていたが、母を失った衝撃で声を失った――。そのような筋立てである。


 もう一つの問題は、類子が持っていた短刀と匂い袋の始末だった。村人の目には触れていないが、誰かに見られれば類子の正体が露見する。湖や千曲川の谷底へ投じることも考えたが、真貴は迷った。類子の安全が確保されれば、身の証となる品でもある。捨ててしまえば、類子は本当の意味で“誰でもない者”になってしまう。


「これは、隠しておこう。……誰にも見つからぬ場所に」

 秀柾は自ら提案した。

 里の山奥に、子どもの頃に遊び場にしていた小さな洞穴がある。村の者で場所を知るのは秀柾だけだ。二人は、その洞穴に短刀と匂い袋を隠すことで一致した。


 翌朝、真貴は類子に偽装計画を説明した。類子はうなずきながら話を丁寧に聞いた。類子が十分に理解したところで、類子に決めさせたいことが一つあった。


 ムメは村の人々がとりあえず呼んだ名前なので、相模国の豪族の娘としての“ほんとうの名前”が必要だった。真貴がどう呼ばれたいかを尋ねたところ、類子はしばらく考えて答えた。


「新たな縁を“結ぶ”という意味で、ユイとお呼びください」


 真貴は、その名を聞いた瞬間に息を呑んだ。その名の響きは、真貴がひとりで千年後の世界にたどり着いた時、「一生の友達になるよ」と言って泣きながら自分を抱きしめてくれた無二の友の名前だった。


 真貴は寺に出向き村長と和尚に『報告と相談』という形で話をした。


 まず『報告』だが、ムメがようやく言葉が出るようになったこと、そこで分かった素性は相模の渋谷一族で名はユイということ、母とともに相模を出て、古府中を経て上越の縁者を頼ろうとしたが、途中で病を得て佐閑の里にたどり着いたこと、近しい身内はいないことなどを報告した。


 そのうえで、上野からこの里にたどり着いた自分ら姉弟と同様の身の上であることから、真貴と秀柾とで面倒をみることにしたことを告げた。


 次に『相談』だが、先に諏訪に行った帰り、海尻から山間の湖岸の道を進んでいる際に、遠くで争うような声と女の子の悲鳴が聞こえたこと、その後、怪我をした武者風と法師風の男たちとすれ違ったこと、この話を黙っていていいものかと悩んだが相談に来たと話した。


 村長と和尚は、真貴の話をうなずきながら聞いて、これらの話は、役人が村を訪れた際に話すのがいいだろうということになった。


 この時代、役人は、よほどのことがない限り、村々からの報告を記録に残すだけで調査は行わない。しかし記録に残れば、それは「事実」として取り扱われる。


 真貴は、類子が死んだとみなせる事実とユイが相模から来た少女という事実を作り出した。


真貴は、類子を守るための策を打った 類子は、これからはユイとして生きて行く

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