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序章 千年越しの便り

★★本作は、第一部「龍神の生贄」 https://ncode.syosetu.com/n2793ln に続く第二部です★★


千年の昔に戻った真貴は「手紙を書きます、経筒に入れて埋めます」と置手紙をしていた

仁と結衣は、真貴が埋めた経筒を発掘した

挿絵(By みてみん)


 結衣は、真貴から届いたという手紙のことを、仁へただちに報告した。

 すぐに掘りに行こうとした結衣を、仁が制した。

 「千年近く土の中にあったものを、準備もせずに掘り返してはだめよ。損なってしまうかもしれないわ」

 仁の言葉に結衣はうなずいた。


 真貴を見送って十五日後、龍口義弘は息を引き取った。家族に見守られての穏やかな臨終だった。

 義弘の希望で葬儀は身内だけで静かに営まれた。結衣は真貴から託された手紙を霊前に供え、祖父に手を合わせた。


 初盆の頃、カリフォルニアから兄の昌平が、シンガポールから姉の知佳が帰郷した。

 結衣は早めに佐間に戻り、準備を整えてふたりを迎えた。


 手紙の発掘は、義弘の初盆を終えた後、仁の指導のもとで慎重に行われた。

 昌平がかつて所属していた研究室から地中レーダーを借り出し、義人と礼司が中心となり、知佳、結衣も手を貸した。

 一メートル近い深さの地中から、ついに“経筒”が姿を現した。


 発掘された筒は、龍口家母屋の一室に運ばれた。仁と結衣が丁寧に泥を拭い取ると、千年の眠りから覚めるように、灰緑の肌が少しずつ光を帯びていった。


 仁が小さく息をのんだ。

 「……猿投窯さなげようね」

 「さなげよう?」

 結衣が聞き返した。

 「ええ。この器の窯元、日本の三大古窯のひとつ、今の名古屋市の東側にあった古い窯跡よ。――平安の世の器が、ここに残っていたのね」


 筒は直径三十三センチ、高さ五十二センチほどで、円筒状の本体に蓋が載っていた。蓋と本体の間には、明らかに自然の泥とは異なる黒っぽい粘土のようなものが詰められていた。

 拡大鏡で見ながら仁が呟いた。

三和土たたきの表面に漆を塗ったようね。きれいに密封してある」

「たたき?」

 結衣が尋ねた。

「日本古来のコンクリートってところね。湿度に弱いんだけど、この容器に使われている三和土は表面を漆で覆って耐湿対策がしてある。こんなの初めて見たわ」


 仁は結衣に指示して容器をきれいな模造紙の上に置き、角度を変えて何枚も写真を撮った。

「これから封印を取り除いて蓋を開けるけど、削り落とした三和土は、このチャック付きポリ袋にすべて回収するから」


 仁は結衣に手伝わせて、火箸のような金属棒とカッター、さらに竹ベラと割り箸を使い、三和土の封を少しずつ削り落としていった。

 「では、開けるよ」

 蓋をそっと持ち上げると、内側から乾いた空気がふっと漏れた。筒の中には、木炭の粒が口までぎっしりと詰まっていた。


 「すごい……これなら、内部はほとんど損なわれていないかもしれない」

 二人は写真を撮りながら、木炭を一片ずつピンセットで拾い上げ、連番を振ったポリ袋に収めていく。

 小さな音を立てて、千年前の空気が少しずつ解き放たれていった。


 やがて、内部の姿が現れた。

 三つの包みが、層をなして収められていた。一番上は手のひらほどの小包。その下にやや厚みのある包み、最も下には大ぶりなもの。いずれも茶褐色の紙に丁寧に包まれている。


 仁は一番上の包みを新しい模造紙の上にそっと移し、写真を撮り終えると、ピンセットで紙の端をつまみながら呟いた。

 「柿渋紙ね。まだ、こんなにしっかりしている。……木炭が効いていたのね。」

 仁が小さな包みの開封を始めた。結衣は仁の手元を見つめながら、開封の一部始終を写真に収めていった。

 包みの中から、小さな装飾品が現れた。

 結衣が息をのんで呟いた。

 「……これ、おじいちゃんが真貴ちゃんに最後に持たせた、九頭竜神社のお守りだ」

 金色のメッキはほとんど剝げ落ち、かつて黄色だったストラップの紐は茶灰色に変わっていた。しかし龍が水晶玉を抱える姿はそのままだった。


 仁は次の包みの開封に取りかかった。慎重に紙をめくるうちに、黄ばんだ書状が現れた。 表書きには、くっきりとした筆跡で「龍神巫女所述文章由来記」と記されていた。


 結衣が読み下した。

 「龍神の巫女の述ぶるところの文章の由来を記す――」

 仁が続けた。 

「どうやらこれは、真貴が直接書いた文ではなく、彼女が記した文章の由来を説明するためのものね」


 結衣が顔を上げた。

「ということは、真貴ちゃんの手紙は……」

 仁が頷いた。

「この一番下の包みの中にあるようね」

 結衣は震える声で言った。

「叔母様、お願い。少しだけでも、読みたいです」

「ええ、私も同じ気持ちよ。――時間がかかるかもしれないけれど、このまま続ける?」

「はい。お願いします」

 二人は小さくうなずき合った。


 二人は大きな包みの開封に取り掛かった。 集中して紙をめくっていくと、その中から、さらに三つの包みが現れた。 いずれも柿渋紙に包まれ、和紙の帯で結ばれている。

 帯にはそれぞれ「第一之巻」「第二之巻」「第三之巻」と記されていた。


 仁が低く呟いた。

「……これは、大変なものが出てきたわ。単なる報告なんかじゃない。おそらく、長い年月にわたる真貴の活動の記録。平安末から鎌倉初期――信濃史の空白を埋める、まさに歴史文書よ。しかも、“現代人の目”で見た記録だわ。」


 結衣は白手袋をつけて、第一之巻を両手でそっと持ち上げた。

「真貴ちゃん、やることが本当にきっちりしてるから……」


 仁が静かに言った。

 「焦らずにね。止め紐をゆっくり解いて……そう、その調子。広げられそう?」

 「やってみます」


 部屋に静寂が満ちた。

 LEDの光が白く和紙に反射する。

 ――千年の時を越えて、真貴の言葉が、今ここに甦ろうとしていた。


平安末期から鎌倉初期の信濃の歴史が甦る

誰も見たことがない地に生きた人々の平安の歴史が始まる

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