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LOG IN  作者: ヘッキー
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ACCESS 01-1

 一話ごとが短い……と思われます。

 今日、妹栗恵子せくりけいこの気分は高揚していた。

 親の都合で転校した先の高校で、約四年ぶりに友人ができたからである。彼女は、中学一年生の終わり頃から高校二年生前半まで、ずっと孤立し続けていた。

 そして四ヶ月前、転校先で自分を理解してくれる友人、淀字美琴でんじみことと出会うことができた。登校初日、初対面であるにも拘らず、恵子と美琴は、『ケーコ』『ミコ』と呼び合う仲にまで発展したのである。

 恵子は、浮足立ってしまう自分が可笑しかった。クスリと笑みが零れる。

 そんな彼女の目の前を、文字通り、目と鼻の先でセキュリティのトラップが通過する。ひやり、と恵子の背筋に冷たいものが走った。

 恵子は今、世界政府のコンピューターに侵入ハッキングをしている。

 彼女の取る手法は特別であった。その手法とは、本来はオンラインゲームをするときに使う、今流行りの、ゲーム上のアイテムやプレイヤーが使うアバター――ゲーム上での仮想の姿、自分で体のパーツや顔のパターンを組み合わせたりすることができる――の姿や会話を、まるでその世界に自分がいるように見・聞き・触れている感覚を楽しむことを可能とした情報変換投影機器、『ヘッドセット』を改造し、コンピューターの端末に繋いで、情報化した精神をネットワークに送り込むことである。

 様々なページやコンピューターに張り巡らされている、セキュリティの網を視覚的に捉えることができるようになり、その隙間を通り抜けるだけでハッキングに成功したことになる。つまりは、どんな初心者でも、簡単なホームページやセキュリティの薄い端末にならば、ハッキングを行えるということだ。

 だが反面、危険な行為でもある。セキュリティに攻撃を受ければ、情報化した精神を通って直接脳にダメージを受け、脳障害を起こす。最悪の場合は死に至ることもあるのだ。

 恵子は緊張の糸を改める。この先にもある、ほんの僅かな隙間だけを覗かせて張られたトラップを見据える。

 ほとんどの事柄が情報化される社会となった今、世界中の情報を統括し、管理・制限・監視を行っているのは、世界政府である。

 そして、それらの情報の最終的な管理・保護をしているのは、世界中に名前を轟かせる技術者がそれぞれの最大の技術を駆使し、協力し合って作り上げたAIである。そのAIは、同じ技術者達が作り上げた最大のファイアーウォールに囲まれ、更に最高の技術が織り込まれた最強のセキュリティによって守られている。

 世界政府AIにハッキングを試みて、無残に倒れたハッカーは数知れず――その中には、恵子と同じく『ヘッドセット』を使っていて、命を落としたものもいる――。いつしか、世界政府AIは難攻不落と言われるようになっていた。

 ハッカーの間ではそのAIを《最奥》と呼び、高い地位にいる人間しか見ることのできない、個人情報や最も大事なデータなどを一時的に保管する場所を《第四層》、未解決の事件やショッキングな事件など、人々に不安を与えるような情報を管理する場所を《第三層》、商品の値段や価値などを整理する場所を《第二層》、表向きのホームページや情報ページを管理するところを《第一層》と呼んでいる。

 恵子がいるのは、《第三層》の情報管理機関に向かう回線の中である。並大抵のハッカーならば、足が竦んでしまうほどセキュリティの厳しい場所だ。ここに遊ぶような心持で来ている時点で、彼女の力量が分かるというものだ。

 その恵子はというと、どうも友人と交わした映画を見に行くという約束が頭から離れないようで、先ほどから体すれすれの距離でセキュリティのトラップが通過していく。一歩間違えれば、取り返しのつかないことになるというのに、彼女はガスをたっぷり含んだ風船のような気持ちで、作業に集中しきれないでいた。

 不意に、セキュリティのトラップが無くなった。《第三層》に行き着いたのだ。

 その場所は、広大な図書館、という言葉が相応しく思えるほど大きな資料室だった。天井は気が遠くなるほど高く、そこかしこに立つ本棚はどれも、一〇階建てのビルに匹敵する高さがある。

 無論、この部屋も本棚も、全て『ヘッドセット』で電脳空間情報を変換させたものを、直接脳に映像として送り出して見せている仮想現実空間イメージである。

 広さの割に狭い本棚と本棚の間を通り、自分の興味を惹きそうな事柄を探す。元々暇つぶしにハッキングしているのだから、ここで面白い記事を見つけることも新しい楽しみがあるのではないか、と思っての行動だ。

 図書館の最奥、つまり一番古い情報が収納されているだろう本棚まで、一気に駆け抜けた。古い記事から探していこう、という腹だ。

 恵子はそこで、不思議なものを見つけた。

 確かに本棚はあった。一九九〇年からだが、二〇七六年の今から数えれば、充分すぎるほど古い記事だ。だが、彼女が見つけたのは、それではない。

 『ヘッドセット』を通して見たそれは、三〇メートルはあろうかという巨大な印刷機だった。

 それは音も無く、だがしっかりと起動している。その証拠に、紙の排出口のような場所から止めどなく印刷された記事が流れ出ている。

 噴出された紙は空中で見えない何かに取られたかのように静止し、恵子の頭上を一直線に飛んでいく。恐らく、情報管理機関の公務員たちが新しく入手された記事の整理をしているのだろう。時々、二人が同時に操作しようとして、ずっと静止状態フリーズのままの記事もある。

 恵子は、静止している情報の一つに目を留めた。途端に、彼女の全身から引き潮のように血の気が引いた。

 その衝撃で声帯が、舌が役割を忘れたかのように言葉が出ない。脳が麻痺したようだ。

 記事が静止状態から解除され、新しい記事の本棚に向かって飛び去っていく。それと同時に、恵子も麻痺から解放された。


「ミコッ!」


 ようやく発した悲痛の叫びは、飛んで行った記事、現実世界にいる親友に向けられたものだった。

 だが、その叫びは誰の耳に届くことはなかった。

 




 本棚に、新しいタイトルの情報が増えた。


『政府コンピュータに不備あり? 全世界の信号機が同時に故障、犠牲者は女子高校生一名のみ! 新千葉県富里市在住の富里高校一年生・淀字美琴さん(一五)』


 しかし、また新しく入ってきた情報によって、それは埋もれて、やがて目立たなくなっていった。

 結構、話が飛んでいるような気がしますが、まあ気にしない。

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