ACCESS 02-3
今までになく短いです。
「いいのかこれで!?」
と思いつつの投稿です。
一日目
視界の隅にある時計が午前六時から翌日午前一時を指すまで、数百人の来場者が訪れたが、バグウィルスは姿を現さなかった。
二日目
日曜日、午前六時から翌日午前零時半まで昨日と同じだった。
三日目
月曜日。同じく午前六時起床。そろそろ現実世界の肉体が危ないかも知れないと思いつつ家の窓から入り口を窺い続ける。大人に夏休みはないからだろうか、今日の午前中の来場者がさっぱりであった。午後七時から午後一〇時にかけて数十人訪れたが、今日も零時を過ぎてもバグウィルスは現れなかった。
四日目
午前六時から一時間、朝食と入浴につきスリープモード。今日も平日である。旧式インターフェースによるアクセスが数人訪れた後、誰もいなくなった午後十一時、遂に標的が現れた。
赤い表面に黒い斑点、トカゲのような細長い頭を冠した半獣半人――バグウィルスのレベル1だ。五体いる。ここから正確に狙撃すれば五体ぐらいあっという間に仕留められる。が、今はそれが目的ではない。息を潜めて、じっとバグウィルスを窺う。
レベル1のトカゲ男はチロチロと炎のような舌を口から覗かせ、辺りをしきりに見回している。しばらくそうして、安全だと思ったのかペタペタと模型の間を縫うようにそれぞれが走り始めた。
予想通り、トカゲ男たちは壊れた模型に飛び乗り、その頭や腕に喰らい付いた。アクセス数の少ないこの時間帯、部分的にデータを捕食・運搬するには絶好の餌場というわけだ。食事を終えると、トカゲ男たちは別の壊れた模型に向かって行った。そして、やはり頭や腕をもぎ取っていった。
それらをわきに抱えたトカゲ男たちは、一斉に入口へ走り出した。五匹全員がページの外へ消えると、太智は家の模型から飛び出した。しかしすぐには追わない。回路に出たバグウィルスは一〇〇メートル以内だと人間特有のにおいを感知することができてしまうのだ。……何とも都合の良いことだ。
十数秒待ってから、ページから出る。ホロウィンドウの地図は、太智の現在位置から直線に一二〇メートルほど離れた場所にバグウィルスの現在位置を表す赤いマスを表示した。
距離を保ちながら追跡する。直線は足音を忍ばせて、曲がり角は後退してバグウィルスの感知圏から離れる。それを繰り返し、気付かれないようにバグウィルスの後を追う。それを二〇分ほど続けていると、突然赤いますが青くなった――バグウィルスの反応が消えた。地図のその場所に印を置き、そこに向かって走り出す。
バグウィルスの反応が消えたそこには、六つの扉があった。その一つには、タイトルが存在しなかった。つまり、これが意味するところは……。
太智はそのノンタイトルのページに転がり込んだ。
まず視界に広がったのは、ぽつぽつと芝の生えた広大な大地である。遠くに赤いバグウィルスの背中が小さくなっていくのが見える。間違いない。ここは《部屋》である。持ち主がどんなであろうと、《部屋》に間違いはないだろう。早速、URLを保存した。
太智がホロウィンドウを掻き消すのと同時に、主が現れた。空間が歪み、そこからにじみ出るようにして、その巨体が姿を現した。
まず、見上げるようなところからぬぅ、と特徴的な爬虫類のような黄土色の細長い頭が現れた。今までのと比べると、やや四角いようだ。次いで、岩のように盛り上がった肩、そして腕がゆっくりと出てくる。……長い。胴が腹部まで現れたというのに、手がまだ現れない。全身の三分の一程しかない足が出てくると、ようやく、引きずるように手が出てきた。力なく握られた拳は、頭よりも大きい。
『頭でっかちの長腕短足』、簡単に言い表すとこうなる。
完全にその異形――異形でないバグウィルスは見たことが無いが――の姿を現したバグウィルスは、トカゲ男たちが持ってきた模型の一部を受け取ると、オジサンたちがスナック菓子でよくやるように真上に放り、落ちてきたところを食べた。
見たところ、レベル3のようだ。
頑張れば倒せないことも無いだろうが、藍との約束があるため、息を潜めて藍にメールを送った。すぐに返事は来たが、『今日は無理』だと帰ってきた。仕方なく、了解の返事と現在のURLを添付して返信した。無事に送信されたことを確認すると、太智は今日はログアウトした。
スリープモード:待機状態、スタンバイ状態です。