第2話 運命の交差
病院の廊下は静まり返っていた。
美咲は父親が運ばれた集中治療室の前で、じっと待っていた。
心臓が激しく鼓動し、時間が止まったように感じる。
周囲の人々が行き交う中、彼女の視界はぼやけ、父の顔が思い浮かんで離れない。
「大丈夫だよ、パパ。絶対に助かるから…」と小さくつぶやくが、その声は自分自身を励ますためのものでしかなかった。
その時、美咲の記憶の中に、母の姿が浮かび上がる。
数年前、父と共に警察署に向かう彼女の姿。
母親も刑事として働き、時には危険な任務に挑んでいた。
小さい頃の美咲はその姿をかっこいいと誇りに思っていたが、彼女が帰らぬ人となる日が訪れるとは夢にも思っていなかった。
「お願い、しっかり生きて、幸せになってね」と母の声が耳元で響く。美咲は集中治療室の前で、あの日の悲劇を鮮明に思い出した。母が犯人に襲われた時の光景、暗い廊下で父が絶望する姿。それらの記憶が彼女の心を締め付ける。しかしなぜ自分が母親の今わの際の場にいたのかはわからなかった。
何時間経ったのだろうか・・・永遠とも思える時間が経過したように思える。
やがて、手術室の扉が開き、白衣を着たドクターが現れた。
美咲は一瞬、希望に胸を膨らませた。しかし、ドクターは静かに首を横に振る。
その瞬間、美咲の心は深い絶望に飲み込まれた。
彼女の世界が崩れ去る感覚が、再び襲ってくる。
「なんで…どうして…うそでしょ…」と涙が頬を伝い落ちる。
美咲は自分の中に湧き上がる感情を押し殺し、父を助けられなかった自分を責める。しかし、彼女の心の中には、自分でも気づかないくらい小さな復讐への炎が静かに燃え始めていた。
状況的に殺されたことは明白だった。事故ではない。
再び、母の言葉が耳に響く。「しっかり生きて、幸せになってね」
病院の廊下に響く足音と、無情に過ぎ去る時間。
その場では感情はぐちゃぐちゃで整理がつかなかった。
なんで・・・どうして・・・・という感情が大きかったが、
日を追うごとに、父親を失った悲しみを背負いながらも、犯人への復讐の炎が燃え広がっていった。
美咲の運命は、今まさに大きく動き出そうとしていた。