ようこそ現代へ②
二人はマントマンから、今の世界についての説明を受けた。
滅びた世界――
そして、その後に築かれた、新たな人類の時代。
100年前にコールドスリープされた人類は"旧世代人"と呼ばれ、
過酷な環境の中で眠らずに生き延びた人々の末裔は"現代人"と呼ばれていた。
そして両者の間には、見えない“深い格差”があるという。
「……でさ、実はちょっとした“隠し事”があるんだけど」
マントマンが、これまでとは打って変わった真剣な顔つきで口を開いた。
「君たち旧世代が眠ってる間、無許可でとある実験の被験体にされてたんだ。意識があれば…絶対に承諾なんてしなかったろうね。おぞましい実験だったから」
沈黙…その言葉の重さをどう受け止めるべきか。
タツヤが答えを探す前に、隣から声が上がった。
「ほぉ〜ん?この世界に弁護士はいるかね?すぐに呼んでくれたまえ。俺ァ訴えて勝つぜ。そんで賠償金でウハウハの未来ライフスタートさせてやるわ」
ナツキの馬鹿な発言は無視し、タツヤは静かに問いかけた。
「……何をしたんですか?」
マントマンは小さく頷き、続けた。
「まず、君たちの体内に“ランバートの遺伝子情報”を注入したんだよ。奴らにとって仲間と認識されれば、攻撃されないんじゃないかってね。
まぁ、当然失敗した。苦し紛れの博打だったし」
「……っ」
「拒絶反応を起こして、そのまま永遠の眠りについた旧世代人も少なくなかった。
…でもね、逆に“適応した個体”からは、思わぬ副産物が生まれた」
そこでマントマンはタツヤたちを見据え、言葉を区切る。
「…君たちの“血”だよ」
ゴクリと息を飲み話を聞くタツヤと、イマイチピンと来ない様子で左腕の血管をブニブニと触っているナツキ。
二人の様子を伺いながら、マントマンは話を続ける。
「現代の技術や“人類の進化”って、たぶん君たちが想像してるよりも、ずっととんでもない代物なんだよね」
そう言って、マントマンは口調を軽くしながらも、真剣な眼差しのまま続けた。
「まず、乗り物にはもう石油なんてほとんど使ってない。
俺たちの世界じゃ、“血液”がエネルギーの源なんだ」
「……血?」
「そう。“人の血”を燃料にする。俺達はこれを"ブラッドエネルギーシステム"って呼んでる」
その言葉に、タツヤは目を見開いた。ナツキは少し引き気味に眉をひそめる。
「この技術を独占してるのが、"レッドウェポンズ社"…略して"R.W社"ってとこ。
名前の通り、武器や兵器も取り扱ってる巨大企業さ」
マントマンはふと、腰に手を伸ばし、一丁の拳銃をホルスターから引き抜いた。
マットブラックの外装。
その形状は、かつて"グロック17"と呼ばれていた銃に酷似していた。