ようこそ現代へ①
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「…い。おーい!聞こえるかーい?センパイ少年団の皆さんー?」
耳に馴染まない声が、タツヤの意識の奥から響いてきた。
視界はまだぼやけていて、頭の中も靄がかかったようだ。
だが、うっすらと見える――緑がかった服にマントのようなものを羽織った人影。
「うっ…頭が……痛い……
こ、ここは……?」
「おっ、起きた起きた!おはようございます、センパイ!」
焦点の合った視界に映ったのは、薄い緑色の戦闘服のような衣服にマントを羽織り、サングラスをかけたブロンド髪の男。
その直後――
「ぶぇーくしょん!!
……ンだよこの部屋、冷房効きすぎだろーが……」
左隣から、聞き慣れた間の抜けた声が聞こえてきた。ナツキだ。
そして、タツヤの記憶が一気に蘇る。
あの日、世界が崩壊したこと。
自分たちは生き延び、コールドスリープ装置に入れられたこと。
そして――愛しい人の存在。
タツヤは勢いよくカプセルを飛び出し、隣にあるはずのユリのカプセルをのぞき込んだ。
「……いない」
そこに、ユリの姿はなかった。
だが、その様子を見ていたサングラスの男が、意味ありげに口角を上げる。
「彼女なら、君たちより少しだけ早く目を覚ましたよ。
他の“旧世代の皆様”もね」
「……旧世代?」
サングラスの男は、ゆっくりとタツヤに歩み寄り、肩をポンと叩いた。
「ようこそ、2112年の――“かつて日本の横浜だった場所”へ」
白い歯を見せてにっこり笑う男。
その少し後ろに、ナツキがノソノソと立ち上がってくる。
「おー、ずいぶん楽しそうな場所じゃねぇか。
パンフレットと入場券くれや。ついでに記念撮影も頼むぜ」
眠たそうに目をこすりながら、いつも通りの軽口を叩く。
「……残念だけど、そんなに楽しい場所じゃないかもなあ」
サングラスの男は肩をすくめ、やれやれというポーズ。
「まず最初に言っておくよ。
世界は――滅んだ!」
「……は?」
「君たちが眠ってる間に、ありったけの核ミサイルをあいつらにぶち込んだんだ。
でも、地球の方が先にやられちまった。今じゃ青かった星も荒野だらけ、海の6割は干上がって、緑も半分以下ってとこ。
それでも、あいつら――“ランバート”は、まだしぶとく生きてる」
「ランバート……?」
「うん。君らの時代だと、“地球外生命体”とか“未確認生物”とか呼ばれてたやつらだね。
地球をこんな風にした元凶だよ」
サングラスの男は2人に奇妙なデザインの衣服を渡すと、手招きしながら言った。
「詳しい話は移動しながらにしようか」
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二人は病院着のような服から、手渡された服に着替え、男についていくことにした。
歩きながら、男は振り返って自己紹介を始める。
「ま、まずは改めてご挨拶を。
俺は“世界解放戦線”――まぁ、いわゆる今の国軍みたいなもんに所属しててね」
少し考えこむような仕草をしてから、パチンと指を鳴らす。
「よし、決めた!俺の名前は――マントマン!マントマン軍曹ってことで、よろしく!」
親指を立て、歯をきらりと見せながら満面の笑みを浮かべる。
どう考えても本名じゃないのは明らかだったが、ひとまず二人は彼を「マントマン軍曹」と呼ぶことにする。
「へぇ〜、マントマン軍曹ねぇ。てっきり“グラさん”とか“サングラス隊長”とか呼ばれてんのかと思ったぜ」
ナツキのバカな発言に、タツヤは思わず小さくため息をついた。