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終わってしまった世界で⑤

――足がもつれる。呼吸が荒くなる。

けれど止まれば、確実に“死”が待っている。


タツヤとユリは、崩壊した街の中を必死に駆けていた。

道中、助けを求める叫びが幾度も耳に届いた。

振り返れば、逃げ惑う人々が次々と追いつかれ、潰され、引き裂かれていく。


けれど2人は助けられなかった。

いや、助けようともしなかった。

生き延びるために、耳を塞ぎ、ただ前へと走り続けた。


「君たち!!こっちだ!!もう少し!!」


声のする方へ顔を向けると、迷彩服の大人たちが手を振っている。

その後方には、ライフルや重火器を構えた兵士たち…自衛隊だ。


「自衛隊…!ユリ、もう少しだ!!頑張ろう!!」


希望が見えた。

タツヤは声を上げ、ボロボロの足をさらに動かした。

そのとき、背後から聞き慣れた声が響く。


「ごめぇぇぇぇん!!!カッコつけてごめぇぇぇぇん!!!」

振り返れば、全速力で駆けてくるナツキの姿。


「引き付けようと思ったけどさ、やっぱ無理だったわー!! 俺も一緒に逃げるー!!」


後ろには、先程ナツキが引き付けたであろうあの怪物もついてくる。

…何度か鉄パイプで殴ったのだろうか、怪物の頭部と思われる部分からはじんわりと青み掛かった液体が滲み出ている。


「うわああ!? バケモノまで一緒について来てるじゃん!? 聞いてないって!!」


タツヤが悲鳴に近い声を上げる。

3人は文字通り、命からがら公園へと駆け込む。


「撃てぇ!!」


自衛官の号令とともに、銃声が一斉に鳴り響いた。

その音は、あのとき聞いた警官の頼りない銃声とはまるで違う。


轟音と共に雨のように降り注ぐ鉛弾がバケモノの体を貫く。青黒い体液を撒き散らし、悲鳴のような咆哮を上げ、やがて崩れ落ちた。


「もう大丈夫だ! 今は避難民たちも、国の指定したシェルターに向かってる!この装甲車に乗って!」


自衛官の言葉に背を押され、3人は装甲車へと乗り込む。

エンジンが唸りを上げ、車体が動き出す。


だが、車内の空気は安堵にはほど遠かった。


銃を弾くバケモノ。車を破壊する巨躯の異形。空を舞う“何か”。

装甲車に乗っていようと、安全とは到底思えない。


「大丈夫、シェルターはすぐ近くだ。君たちはここでしばらく身を隠していてくれ」


優しげな眼鏡の自衛官がそう言って微笑んだ。


そして、3人の不安は幸運にも杞憂に終わる。


--


装甲車が停止する。その先にはかつて見たことのない、“地下都市”のような広大な空間が広がっていた。

それが政府指定の避難施設…シェルターだった。


「ひとまず、ここなら安心できると思う。我々はこれからまた地上に戻り、救助活動を続ける」


自衛官はそう言い残し、車に乗って再び走り去っていった。


静寂が戻った空間で、ユリが口を開く。


「…えっと…九条くん、さっきは本当にありがとう…」


深く頭を下げる彼女の姿に、タツヤも思わず礼を述べる。


だがナツキは照れくさそうに頭を掻きながら笑った。


「よせよせ、俺は別に女の子とその彼氏に頭下げて欲しくてやったんじゃねーよ。

助けられそうだな、って思ったら体が勝手に動いてただけだ」


「……ありがとう。あ…僕は彼氏じゃないからね」

タツヤは小さく笑いながら、さりげなく訂正した。


ユリはくすりと微笑み、3人の間に少しだけ、安らぎが戻っていた。

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