終わってしまった世界で②
「こちら"クレリック"。周辺警戒中のドローンが、もう1体のランバート反応をキャッチ……タイプと位置は未確定。ごめんなさい…ただいま解析中です」
少女の声が、通信越しにわずかな揺れを含んで届く。だがその声の裏には、確かに慎重さと責任感が滲んでいた。
「ほぉ、お連れさんが居るんだな」
ナツキが肩をすくめながら言う。
「デートの待ち合わせか?いいなー、青春ってやつか?」
「…"デザートホーク"、了解。引き続き索敵と警戒を続ける」
タツヤは淡々と応答しながら、ナツキの軽口を切り捨てた。
任務中に遊んでいる余裕などない。
「おい、アホロン毛。君もさっさと周辺を探れ」
「ふぇいふぇい……」
ナツキは退屈そうに頭を搔くと、ポケットから取り出したリンゴを齧りながら答える。
「……聞こえてるか"ハービンジャー"。その貴重な果物を、ここから吹き飛ばしてやろうか?」
コードネームで呼ぶ。それはタツヤなりの"任務中だ、ふざけるな"という警告だ。
スコープ越しに冷ややかな視線を送ると、ナツキはピタリと動きを止め、肩を震わせた。
次の瞬間、リンゴを口に押し込みながら、そのまま駆け出していく。
「ったく……」
タツヤは小さくため息をつき、再びライフルのスコープを覗く。
風が静かに荒野を撫で、崩れた建物の影を揺らしていた。
もう一体の“それ”は、まだ現れない。
……だが、タツヤの瞳はその先ではなく、もっと遠くを見つめていた。
⸻
記憶が胸の奥で疼く。
世界が終わった、100年前の――あの日から記憶を。