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第4話「アテナと竜太郎… 二人の想い」

第4話「アテナと竜太郎(りょうたろう)… 二人の(おも)い」


 くみが『勝利の女神』ニケとして覚醒(かくせい)し、幼い身でありながら自分の能力を垣間(かいま)見せた時、母であるアテナ自身も女神アテナとしての記憶を取り戻した。


 それからの、くみの人生における、アテナの努力は並大抵のものではなかった。

 自分自身まだ()れない異国の地である日本で、主婦として家を守り、母親として娘のくみを育て、幼いくみに対してニケとしての自覚と能力の制御等も教えていかなくてはならなかったのだ。

やはり女神としての慈愛(じあい)の気持ちと、人の母としての母性本能の両方において、アテナは(おの)が娘を精一杯愛し(はぐく)んだ。ニケは自分が他の同世代の子供達と異なることに戸惑(とまど)いを覚えながらも、母アテナの献身な子育てに感謝しながら、すくすくと育った。


 アテナは自分にとって最愛の夫であり、くみの父親でもある榊原(さかきばら)竜太郎(りょうたろう)にも、真実を隠しておく訳にはいかなかった。


 自分とくみの二人が女神として覚醒した日の夜に、アテナは自分達母娘(ははこ)に起きた出来事全てを包み隠さず竜太郎に打ち明けたのだ。

 アテナは、いくら夫が自分を愛してくれているとは言っても、自分の打ち明ける話を信じてもらう事は困難だと思っていた。

しかし、不思議な事に、竜太郎は妻アテナの告白を聞いても(たい)して驚きはしなかったのだ。そればかりか、彼はアテナに対して馬鹿げた事を言うなと非難したり、妻である彼女を変人扱いする事など全く無かったのだった。


 妻からの到底信じられる(はず)の無い告白に対し、夫が示した反応に、自分から打ち明けた側のアテナが逆に戸惑(とまど)ってしまったほどだった。。

 夫である竜太郎が妻である自分を誰よりも理解し、愛してくれている事をアテナ自身が十分に承知しているとはいえ、自分が告白した話の内容が並外(なみはず)れて尋常(じんじょう)なものでは無く、荒唐無稽(こうとうむけい)としか言いようがなかったのである。何しろ、自分の共に暮らす妻と娘が、二人ともギリシャ神話に登場する女神の生まれ変わりだと言うのだから…


 夫に容易に受け入れられるという事の方がアテナにとって理解しがたく、気味が悪く思えても不思議ではないのだ。竜太郎(りょうたろう)の示した態度がどうしても理解出来ない彼女が、(おそ)る恐る夫にその理由を(たず)ねてみると、彼はアテナの目を真っ()ぐに見つめながら、真剣な表情で次の(よう)に答えたのである。


 ギリシャで初めてアテナに出会った竜太郎は、一目で彼女と恋に落ちた。これはアテナも全く同じだったのだが、竜太郎が言うには、彼自身の方は少し違っていたのだと妻に打ち明けたのだ。


 竜太郎は、彼にとって外国人であるアテナを国籍など関係なく一人の女性として恋をしたのと同時に、彼女に対して口で上手(うま)く説明する事の出来ない、畏敬(いけい)の念とでも言うべき気持ちをも抱いたのであった。国際的に見て信仰心が薄いといえる国で生粋の日本人として生まれ育った竜太郎にとって、自分がアテナに抱いた気持ちが、彼自身でも理解するのが困難な非常に不思議な感情であると言えた。

 それは竜太郎自身が、それまでの人生で一度も味わった事の無い、言葉で表現出来ない感情だったのだ。


 この夜、竜太郎からも妻アテナに対して、二人が初めて出会った瞬間から今まで自分が彼女に抱き続けてきた、こうした(おも)いを隠す事無く正直に打ち明けたのである。竜太郎は一目(ひとめ)でアテナに対して恋心を抱いたのと同時に、彼女に対して使命感めいたものを感じていたのだ。


 自分がアテナを一人の女性として愛すると同時に、彼女が自分の命に代えても守らなければいけないかけがえの無い存在であると、頭で理解するのではなく心で感じていたのである。誰に命令されたわけでもなく、それが自分の生まれながらの使命であると竜太郎は心に(きざ)み込み、外部に対しては微塵(みじん)(うかが)わせる事無く心に()めながらアテナを愛し続け、彼女と共に生きてきたのだった。


 この一人の女性を永遠に愛したい、守りたいという(たましい)の叫びとでも言うべき感情が、彼の心の底から()き上がってきたのだ。


 自分がこの世に生を受けたのは、まさしくアテナと出会い、恋に落ち、愛し合い、(ちぎ)りを結び、二人の間に子を(もう)ける事だったのだと、彼の心が理解したのである。


 「ごめんよ、アテナ… 上手(うま)く説明出来なくて…」


 口ごもりながら話した竜太郎に対して、アテナは下を向いたままだった。しかも彼女の身体は小刻(こきざ)みに(ふる)えていた。

そんな妻の様子に驚いた竜太郎が何か言おうとしたその時、アテナは震えながら顔を上げ、真っ()ぐに夫を見つめた。竜太郎は息を呑んだ。自分を見つめる彼女の青く美しい瞳からは涙がとめどなく(あふ)れ出し、(ほほ)を伝い落ちていたのだった。 

 彼女は泣いていたのだ。自分に対する竜太郎の深い愛が込められた心からの告白に感動し、その青い瞳からとめどなく涙を流していた。


「ありがとう、あなた… あなたは、今までずっと私を一人の女として愛してくれたわ。私が女神アテナの転生した姿だと、うすうす感じていたのにも関わらず…」


「私もあなたとの出会いには、運命のようなものを感じていたの… 日本語では魂の結びつき…とでも表現するのかしら…?

 もし、あなたと出会わなかったら…私が他の男性に対して同じ気持ちを(いだ)く事は永遠に無かったでしょうね。竜太郎、あなただったから、私達は互いを理解し合い愛し合えたのよ… そして私達が愛し合った(あかし)として、二人の間にくみが生まれたんだわ。」


 アテナは竜太郎の両手を自分の手でしっかりと握り、彼の目を見つめながら心を込めて話した。


「私がこの時代の人間女性として転生(てんせい)し、アテナの随神(ずいしん)である勝利の女神ニケもまた、私達の娘くみとしてこの世に生を受けた。ニケが誕生するために竜太郎…あなたが必要だったんだわ。あなたで無ければならなかった。

 日本人の榊原竜太郎が、人間の女性に転生した女神アテナの覚醒と、二人の娘としてニケが誕生するために必要だったのよ。

 私は心からそう信じ、あなたに感謝します。」


 竜太郎も妻アテナを見つめながら彼女の手を取り、二人はしっかりと両手を握り合った。


「この事が何を意味し、(てん)が僕達家族に何かを求めているのかどうかは分からない…」


 竜太郎がアテナの青い瞳を真っ()ぐ見つめながら言う。


「分からなくてもいい、僕達二人でくみを守り育てていこう。何があろうと家族三人で力を合わせて生きて行くんだ。アテナ、僕は君を愛してる。」


 二人はどちらからともなく身体を寄せ合い、お互いを力強く抱きしめた。


「ありがとう、竜太郎… 私もあなたを愛してる。一人の人間女性アテナとして…」


 二人はその夜、夫婦として人間の男女として互いを求め合い、激しく愛し合った。朝まで何度も何度も…


 (とな)りの部屋では赤ん坊のくみが、幸せそうな笑顔を浮かべて安らかな寝息(ねいき)を立てて眠っていた。


 この時、三人は幸せな家族であった。榊原(さかきばら)家には愛が満ち(あふ)れていた。いったい、天はこの三人に何を求めているのだろうか…? そして、この家族にどんな運命が待ち受けているというのだろうか?

 三人がその真実に気付くまでには、まだ時がある。それまでの間、幸せな家族の時間が続くだろう…

 しかし、その(あと)に三人を待ち受けているのは果たして…?


今はまだ、誰にも分らなかった…



【次回に続く…】


『次回予告』

くみ(・・)の祖父である安倍賢生(あべの けんせい)… 彼の素顔は稀代の大陰陽師(おんみょうじ)であった。

賢生(けんせい)竜太郎(りょうたろう)親子の乗った旅客機に悲劇が(おとず)れる。

ニケとアテナは二人を救えるか?

榊原家(さかきばらけ)の戦いが始まる。


次回ニケ

第5話「祖父… 大陰陽師、安倍賢生」に、ご期待下さい。

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