第六段 大進生昌が家に(後半)
その後も、この生昌は、夜中に障子をあけて私を訪ねてきて、「そこにお伺いするのは、よろしいでしょうか。よろしいでしょうか。」と声をかけてきて、女房たちに笑われたり、「姫君にお仕えする童の衣装を何色にすればいいかと尋ねて、女房たちに笑われたりする。夜中に女性を訪ねたら、さっと部屋に入るものだ。「よろしいでしょうか。」と聞かれて、だれが「はいどうぞ。」なんて返事をするものか。童の衣装の色など、決まり切っているし。
定子様は、「生真面目な者なのですよ。笑ったりしないで。可哀そうよ。」とおっしゃる。さすが、定子様、思いやり深く「をかし」と感じ入る。
午後になって、「大進から、お話したいということです。」とほかの女房が告げるのを定子様がお聞きになって、
「まあ、また何を笑われに来るのでしょうか。」とおっしゃる。「あなたが行って、聞いてきてくださいな。」と言われるので、行ってくる。
「昨夜の門のことを兄の中納言に話しましたところ、ひどく感心されて、『ぜひ、お伺いしてお話したいものだ。』と申しておりました。」と言う。
御前に戻り、このことを定子様にご報告すると、周りの女房たちは、
「わざわざ呼び出して話さなくても、何かの折にさりげなく話せばいいのにね。」と言う。
定子様は、
「自分が尊敬する兄が感心したことを、ぜひ伝えたかったのでありましょう。きっと、あなたもうれしいと思うと考えて。」とおっしゃった。
このような会話をすることも「をかし」。
(実は、定子様がお里下がりをする先が、こんな生昌のところになったのも、いざ、お里下がりをする日に公卿がちっとも来なかったのも、すべて叔父の道長の嫌がらせであったのだ。しかし、定子様は、こんなに素晴らしい方で、生昌の家で明るく過ごされていたのだということを清少納言は書きたかったのであろう。)
次は、内裏に住む、『女官』の猫様のお話です。




