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第三〇段 過ぎにし方恋しきもの
過ぎ去った昔が恋しいもの
雛遊びの調度品。この遊びの、どんなに楽しかったことか。何も知らず幼い子供の頃がしのばれて、恋しい気持ちがあふれ出す。
格子模様や、紅と藍の二色染、葡萄染めの紫色などの布の切れ端が押しつぶされて草子の本の間に挟まっているのを見つけたとき。ああ、あの時こんなことを考えながら読んでいたわね、と恋しく思う。
「あわれ」と思いながら読んだ人からの手紙。雨が降ってすることもなく、「つれずれ」の気持ちのまま見つけ出した賀茂祭のときの二葉葵の枯れたもの。去年使っていた夏用の蝙蝠扇。ああ、当時のことが思い出される。
月の明るく輝く夜。月を見ると、なぜか昔のことが思い出されて「恋し」。
この気持ち、分かります。




