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第百八二段 宮にはじめてまいりたるころ(その7)
(伊周様が私に話しかけてこられたので)
おそれ多くも陰にとささげている扇まで取ってしまわれたので、額髪を顔に掛けるのであるが、髪の豊かさがあやしいことまで思い至って、
「何につけてもまったくこちらの容貌のみっともないことが見えているであろう。早く立ち去ってください。」などと思っているのだが、扇を手にされて、
「この絵は、誰に書かせたのか。」などとおっしゃって、すぐに立ち去ってはくださらない。
(清少納言は、この時代の美人の代名詞、『緑の黒髪』は、持ち合わせていなかったです。それどころか、ちょっと年増でした。)
袖を顔に押し当て、うつ伏していると、裳や唐衣におしろいが移ってしまい、また気持ちが暗くなる。伊周様が、ながらくここに座っていらっしゃるのを、言うまでもなく苦しく思っているであろうと心得て下さったのであろう、
「これをご覧ください。これは誰が書いたのでしょうか。」と定子様がお聞きになるのをうれしく思う。ところが、伊周様は、
「いただいて、拝見いたしましょう。」とおっしゃる。
「やはり、ここに来てください。」と定子様がおっしゃる。




