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第百八二段 宮にはじめてまいりたるころ(その6)
「御几帳の後ろに控えているのは誰ですか。」と問われた。
「こちらは、誰それです。」と申し上げるべきであろうが、立っていらっしゃるのを見て、他の方に問われたのだと思っていると、とても近くに座られて話しかけられる。
まだここに居なかった時に、聞いていらっしゃったことを、
「ほんとうにそうであったのか。」などおっしゃるのを、いままで御几帳を隔てて離れたところから見申し上げるのでさえ伊周様があまりに優美で恥ずかしく感じていたものを、ひどく驚いて、このように向かい合い申し上げている気持ちは、現実の事とは思われない。
天皇の行幸などを見ていた時、伊周様がこちらの車の方をちょっと見られるときには、車の下簾を整え、透影も整えようと扇で顔を差隠していた。それなのに、われながら身の程もわきまえずどうして出仕などしてしまったのかと、汗がにじんできてどうしようもないのに、いったい何をお返事申し上げようというのか。




