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第百八二段 宮にはじめてまいりたるころ(その1)
宮中にはじめて参上したころ、なにかと恥ずかしいことが数知らずあって、涙が落ちることもあり、夜ごとに定子様のもとに参り、三尺の御几帳の後ろに控えていた。定子様は、絵などを取り出して見せてくださるのだが、手も差し出しがたく耐えがたくつらい。
「この絵は、こうこうですよ。あの絵は、かくかくしかじか。」などとおっしゃるのに、高坏に灯してある明かりなので、髪の毛の筋なども、かえって昼よりはっきりみえてきまりが悪く恥ずかしいけれど、じっとこらえて見ていた。
たいそう寒いころだったので、さしだしていらっしゃる御手がわずかに見えるが、すばらしく美しい薄紅梅色なのは、かぎりなく見事だと、このような世界を知らぬ素朴な者の気持ちは、
「どうでしょう。このような人が、この世にいらっしゃるとは。」と、驚きながら見守り申し上げる。
平安時代の女性は、人に見られないように過ごしていたので、出仕して人前に出ることは大変なことだったようです。




