第二二段 すさまじきもの(その三)
幼い子の乳母が、
「ほんのちょっと出てきます。」と言って宿下がりしたのに、子が
「乳母はどこ?」と探すので、どうにか遊ばせてなぐさめてあげながら、一方で
「はやくかえって来て。」と使いをやると、
「今夜はかえることができません。」と、返事をしてくる。
「すさまじ」どころではなく、「にくし」という気持ちでどうしようもない。
(泣く子と地頭には勝てないよね。あ、地頭は鎌倉時代か。)
普通は男が女のもとに通うのだが、特別な事情で、男が女を迎えに行かせたとき、「今夜はかえることができません。」などと返事をされたらどんな気持ちがするだろう。
また、男を待っている女の家に、夜が更けてから、しのびやかに門をたたく音がするので、仕える人を出して誰なのか尋ねさせると、待っている男ではない名を名乗る。かえすがえす「すさまじ」。
病人がでて、修験者を呼んだ時。物の怪を調伏すると言って、ずいぶん得意顔をしてやってきて、よりましの者に数珠などを持たせてそれらしくいかめしい声を出して読経をする。それなのに、いっこうに物の怪は退散せず、護法童子がやって来ない。集まっている家人が男女とも変だと思い始め、二時間ばかり読経を続けた後、
「いっこうに寄り付かない。立ち去れ。」といって、よりましから数珠を取り返したかと思うと、その場であくびをして寝てしまう。「すさまじ」。
(乳母にも、修験者にも、こんな無責任な人もいたのね。平安時代の生活が見えて、面白いや。)
まだまだ続く「すさまじ」。




