第百八段 淑景舎、春宮にまいりたもうほどのことなど(その2)
(妹君の淑景舎がいらっしゃるので、父君、母君もいらっしゃった時のこと)
定子様は、お部屋の南に、四尺(約120㎝)の屏風で西と東を隔て、北を正面にし、御畳やお敷物を置いて、火桶を据えていらっしゃる。屏風の南側や御帳台の前に女房がとてもたくさん座っている。
こちらで私が御髪などを整え申し上げていると、定子様が、
「淑景舎を見申し上げましたか。」と尋ねられたので、
「まだ、どうやって見申し上げましょう。道隆様がなされた積善寺供養の日に、ただ御うしろすがたをかすかに見申し上げたばかりです。」
と答えると、
「その柱と屏風の傍によって、私の後ろから御覧なさい。」とても可愛らしい方よ。」とおっしゃるので、うれしく、早く知りたいと思って、待ち遠しく思う。
定子様は、紅梅の固紋、浮紋のお召し物の裾に、紅の御打衣三枚を、ただ打ちかけてお召しになっていらっしゃる。
「紅梅には、濃い色の衣を重ねるのが趣があるのです。時節柄、紅梅を着ないでもよいのだけれど。でも、萌黄色は、好きではないから。紅梅に会わないし。」とおっしゃるのだが、今目の前の定子様のお姿は、すばらしい。お召しになっている御衣装に、お顔の美しさがにおい合わせるようで、もうお一方の妹君も、このようでいらっしゃるであろうと、なお、待ち遠しく思う。




