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第百段 ねたきもの(前)

 いまいましく思うもの。


 こちらから送るのでも、他の人から言ってきたことの返事でも、書いて送ってしまってから、文字の一つ二つは、あのように書くのではなかったと思いなおしていること。


 急ぎの物を縫っているときに、さあ縫い終わったと思って糸を引き抜いたら、はじめに糸を結んでいなかったことに気がついた時。また、裏返しで縫ってしまった時も、まったくいまいましい。


(清少納言も、そんな失敗するんだ。葉月も、いろいろやらかして、「ねたき」思いはあじわってます。)


 父君の道隆様の、東三条南院に、定子様がいらっしゃるころ、西の対の屋敷に道隆様がいらっしゃり、定子様も行っていらっしゃるので、女房達はこちらの寝殿に集まっている。定子様がこちらにいらっしゃらないので物寂しく、戯れて遊んで、渡り廊下に集まって座っていると、


「これはたった今渡された急ぎの物です。誰もかれも集まって、時を移さず縫って差し上げなさい。」と、平絹の御衣を下げ渡していらっしゃる。


 女房達は南面(みなみおもて)に集まって、それぞれに片身(かたみ)ずつ持って、だれが早く縫い上げるか競いながら、近くの者と向かい合うことさえしないで縫っている様子は「ものぐるおし」。


 命婦(みょうぶ)乳母(めのと)が、早くも縫い終え衣を下に置き、続いて裄丈の長い方の片身を縫っている。ところが、裏返しで縫ってしまっているのに気づかず、糸の結び止めもしておらず、大慌てで立ち上がって、背を合わせようとすると、違ってしまっている。女房達は、おお笑いしておお騒ぎして、

「これを縫いなおしなさい。」と言うが、

「だれが間違って縫ってあるなんて知って、直そうなどと思うものですか。綾織の布ならば、縫い間違えた人が直すでしょうが、無紋の布ですよ。何を表裏の目印にするというのです。直す人などいません。まだ縫っていない人に直させればいいのです。」と言って、聞き入れない。


「そんなことを言って、このままにできようか。」と言って、源少納言、新中納言などという人が、お直しになる顔を、見ているのは「おかし」。夜遅くに内裏に上られようとお思いになって、

「はやく縫ってくれた人を、私を思ってくれる人だと思うわ。」とおっしゃったということだった。



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