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第九九段 御乳母の大夫の、今日の
定子様の御乳母である大夫の命婦が今日、日向に下っていくという日に、定子様から餞別に贈られる扇などの中に、片方は日光が華やかに差し出ていて旅人のいるところに、井中将の館がたいそう趣深く描かれていて、もう片方には、京の方で雨がたいそうひどく降っているところと、それを眺めている人などが描かれている物があった。
あかねさす 日に向かいても 思いいでよ 都は晴れぬ ながめするらんと
(日向に向かい、日光に向かって旅立っても、思い出してください。都では晴れることなく、心が晴れず雨を眺め、ながめをして物思いにふけっていると。)
扇の詞書として、定子様みずからお書きになったのであった。なんとも「あわれ」。こういうすばらしい御主君を置いて、遠くに行くことなど、できそうにもない。