第九一段 職の御曹司におわしますころ、西の廂に(その7)
ところで、その雪山を作った日に式部の丞である源忠隆が一条天皇のお使いとしてやってきた。敷物を差し出し、話をすると、
「今日は雪山を作らせないところはありません。天皇様の御前にある壺庭にもお作らせになりました。中宮様、東宮妃の弘徽殿、道長様の京極殿にも作らせられました。」などと言う。
ここにのみ めづらしと見る 雪の山 ところどころに ふりにけるかな
(ここでだけ作ったと思って珍しいものだと見ていた雪山だが、あちこちに降る雪のために古びてしまったのですね。)
と歌に詠むと、
「返歌はとてもできません。せっかくの歌を汚してしまいます。」と、ふざけてごまかされる。
「御簾の前で、他の方々にこの歌を披露しましょう。」といって、立ち去ってしまった。歌をたいそう好まれると聞いていたのに、不思議だこと。定子様は、
「たいそう素晴らしい歌を詠もうと思って、今は返歌をしなかったのでしょう。」とおっしゃった。
大雪が降ると、雪山を作らせるのは、定子様だけじゃないのね。まあ、平成の今でも、雪がたくさん降ると雪だるまがあちこちに出現する。スーパーの駐車場に、美しくない雪山ができる。(日本海側に限ります。)




