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第八六段 頭中将のそぞろなるそら言にて(その5)
「そのうめき声を聞いて、
『変だな。どうしたのか。』と言って、皆寄ってきて見た。
『なんとひどく思いがけないことをする者だ。やはり、放っておくわけにはいくまいよ。』
と、見て騒いで、
『この句に上の句をつけて返しをしよう。頭の中将、上の句をつけなさい。』などと言う。
そのあと、夜が更けるまで付けることができずに、終わってしいまいました。このことは、必ず語り伝えなくてはならないと、皆で話しました。」と源の中将が語った。
まあこんなにも、とひどく気恥ずかしくてきまりのわるいことを話しておいて。
「あなたのお名前は、草の庵と付けました。」と言って急いで立ち上がられた。
「ひどく悪い名前が末代まで残ることが、口惜しいことです。」と言っていると、修理の次官である橘則光が
「たいそうめでたいお喜びを申し上げに上の局にいらっしゃると思って、やって参ったのです。」という。
清少納言の面目躍如。これは、一大ニュースで、一面トップの記事として、宮中にひろがったことでしょう。




