好きな人の好きな人
翌朝はよく晴れた。
優梨はいつもより早く登校して、昇降口のあたりに誰もいないのを二回確認してから、思い切って下駄箱に手紙を入れる。
いまどき、スマホのメッセージのほうが普通で、下駄箱の手紙なんて古典的だとは思うけれど、なんとなくこの方が呼び出すのには適切なように思えた。
永遠に続くかと思えた二時間目の授業がようやく終わり、屋上手前の踊り場に階段で昇る。
巽はすでに来て待っていた。
「二時間目、すこし早く終わってさ。で、どうしたの?」
「えと、これ、傘ありがとう」
傘を受け取りながら、
「どういたしまして。でも傘返すだけのためにわざわざ呼び出したんじゃないでしょ? 何か話?」
という巽の目を見て、優梨はグーの拳にした両手をしっかり握りしめ、ゴクリとつばを二回飲み込んでから言う。
「えっとね、こんなこと言っても困らせるってわかってるけど、あたし、……好きなの」
巽は驚いた顔をしたが、黙ったまま首をすこし左に傾けて、優梨が言葉を続けるのを待つ。
「あたしたち、 ちっちゃい頃からいっつも3人、一緒だったよね。だけど、中学に上がった頃からハセタツはあんまりあたしたちふたりと話さなくなって、高校に来たらあたしとはあんまり関わらないのに、ミーヤとは結構仲良くしてるじゃん。なんか最近、あたしミーヤと距離開いちゃってさあ」
「えっと、で、オレどうしたらいいの? また昔どおり3人仲良くしたい、ってこと?」
「自分でもよくわかんない。だけどね、あたし、……ミーヤが好きなんだ。だから、ハセタツとミーヤが二人きりで仲良くしてんのを見ると、なんかモヤモヤするの。あ~、あたし何言ってんだろ。ごめんね、こんなこと言ってもハセタツ困らせるだけだよね」
「言っとくけど、オレと未夜とは付き合ってるわけじゃないよ」
「どっちでもいい。あたし、これからミーヤのとこ行って告白してくる」
優梨はそう言って階段を走って降りていった。巽はその後ろ姿を見送りながら、「どっちでもいい、って言ってもなあ」と呟いた。