置き傘
昇降口から校門の方を眺めて、綾川優梨はため息を吐く。
今日最後の授業が始まる頃にポツポツ降り始めた雨は、教室を出る頃には大分激しくなっていた。置き傘は先週の雨の日に持って帰ったまま。
「どうした、傘、忘れたのか?」
支倉巽の声だ。
「忘れたっていうか、持ってこなかった。今日は降らないって言ってたから」
巽は学生鞄からごそごそと折りたたみ傘を取り出して優梨に差し出す。
「ほれ、使っていいよ。折りたたみだから小さいけど」
「ハセタツは大丈夫なの」
「オレ今日図書委員の当番だからまだ帰らないの。帰る頃までには止むだろうし」
「止まなかったら困るんじゃないの」
「大丈夫。未夜も今日部活だし」
「あ、そうか、ミーヤは慎重だからきっと大きい傘持って来てるよね。今日は一緒に帰るんだ」
加蔦未夜と巽と優梨は、幼稚園以来いつも3人で一緒にいた幼馴染だ。
「じゃあ、お借りします」
巽から傘を受け取って優梨はひとり昇降口から出て家路につく。
校舎と校門のちょうど中間くらいで、体育館の横を通り過ぎる。
体育館の横の扉は開いていて、雨音に混じってバレー部員が掛け合う声やスパイクされたボールが床に跳ねる音が聞こえてくる。
「あ、ミーヤも練習してる」
優梨が扉の横を通り過ぎたとき、人気者の幼馴染が小気味よいブロックをちょうど決めたところが見えた。