8,死体の身元判明
日本海に面した九頭竜川の河口である三国港で発見された遺体の身元が判明した。宮内庁から依頼を受けて意見書作成のために福井に来ていた佐久間美佳だった。東京で出されていた捜索願から照会があり、両親が坂井警察署に来て確認された。鮮やかな赤いスーツに身を包んだ彼女の死体は、これから展開する事件の激しさを連想させる。
7月13日に九頭竜川の河口の防波堤で見つかった女性の死体は意外な形で身元が判明した。東京の警視庁に出された失踪届によく似た女性の情報があったのだ。福井県警から身元不明の死体の情報があったことで、警視庁が連絡をつけてきた。失踪届の出された人物の家族がはるばる福井県警までやってきたのは7月15日のお昼だった。立ち会ったのは福井県警の林田刑事。福井県警を訪れたのは大阪府大阪市からやってきた佐久間巌と茂子である。林田刑事は佐久間夫妻を応接室に案内し概要を聞くことにした。
「佐久間さんがお探しなのは娘さんですか。何と言うお名前なんですか。」
「はい、娘の美佳、35歳です。娘は東京で宮内庁に勤めているんですが、7月12日に宮内庁から電話があり、『福井に出張に行ったが連絡が取れなくなった。失踪届を出したいと思う。』と言われたんです。そして昨日になって『福井で身元不明の死体が日本海の河口で見つかったから確認しに来て欲しい。』と言われたんです。」と話してくれた。林田は
「失踪当時の服装とか本人の特徴とか何かありませんか?」と聞いた。
「どの洋服を着ていたかはわかりません。ただ、娘は身長が160cmくらいの中肉中背、色が白くて、髪は長く肩まであります。右の目尻に小さなほくろがあります。」と証言した。林田刑事は死体検分書に「右目下のほくろ」という記述を確認し、ほぼ間違いないという確信を持ち、
「それではご遺体と対面していただいて、ご確認いただけますか?」と言って霊安室に案内した。霊安室の壁にいくつかあるレバーのうち一番右下のレバーを回し、引っ張り出すと台車に乗ったご遺体が出てきた。白っぽい布で覆われていたが、林田刑事が
「それではご確認をお願いします。」と言って布を外した。その瞬間
「美佳さん、ああ、美佳さん」と絞り出すような声でご遺体に縋りつく母、茂子が泣き崩れた。林田刑事は
「娘さん、佐久間美佳さんで間違いありませんか。」と確かめると
「間違いありません。損傷はありますが娘の美佳です。」と父親の巌が証言した。林田は
「死体検分の結果、溺死で間違いありませんが、やや疑問が残る点があります。水に浮いていたので確実ではありませんが、死後24時間から48時間程度、すなわち死亡推定時刻は7月11日の早朝から12日の早朝にかけてということになります。もうしばらく捜査は続きますが身元が確定したので捜査は進展すると思います。ご遺体は業者とご相談の上、お引き取り頂きご葬儀をされればと思います。では本日はご苦労様でした。」と挨拶して終わった。
福井県警の捜査は被害者が宮内庁の佐久間美佳と確定したことで、佐久間美佳の東京での周辺の聞き込みと福井へ来てからの足取りを調べることから始めることになった。
被害者の身元が判明したことで事件は展開していく。捜査は反保裕司や野坂陽子に疑いをかけていくが、背後にはもっと大きな力が蠢いていた。