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3、NKH制作局

NKHでは3年後の年末歴史ドラマの制作予定が秘かに進められていたが、どこから聞きつけたのか担当プロヂューサーの所に各県の知事や国会議員がわが県を取り上げてくれるように陳情が続いた。NKHでは自分たちに責任が及ばないように調査を外部機関に委ねることにする。そこで選ばれたのは、宮内庁だった。

東京都渋谷区神南(じんなん)のNKHは原宿駅から五輪(オリンピック)(ばし)を渡って右手に明治神宮や代々木公園の森を見ながら進むと左手に放送センターとNKHホールがそびえたつ。連日、修学旅行生などの見学客が後を絶たず、スタジオ見学や生放送番組見学などをしている。大道(おおみち)エクゼクティブプロデューサーは3階の制作局に部屋を構えている。ドラマを担当するディレクターでこれまでも多くの作品を手掛けてきた。大河ドラマや土曜日の夜の社会派ドラマなど優秀な作品を多数手掛けてきた。現在、手掛けているのは2023年から3年間かけて年末に3回ずつ、計9回の年末歴史ドラマである。日曜夜の大河ドラマは1年単位で、戦国時代か幕末から明治初期が中心で、主人公を変えることで見方を変えてストーリーを展開してきた。年末歴史ドラマはやや幅を広げて時代を考えることができる。しかし、取り上げる人物と場所によって地元の観光産業に与える影響は大きく、過去にも地方の県が観光ブームに沸いたことは多々あった。だから、各県の知事たちの地元を売り込むアピール合戦はNKHを困らせる事態となっていた。今日は5月10日だが、大道のもとに佐賀県の石山(いしやま)知事が来ることになっていた。どこから情報が漏れたのか、NKHで3年シリーズの年末歴史ドラマを計画していることが耳に入ったらしい。まだ、時代設定をどの時代にするのか、誰を主人公にするのかも決めていないのに、もう4県目のアピールである。各県からの直接の交渉ならばお断りもするのだが、国会議員を通じてNKHの会長に話を通し、会長から『話を聞いてやってほしい』と頼まれると、あくまでもNKHの一職員である大道は断ることもできない。

約束の時間に部屋で待っていると、ドアをノックする音がして佐賀県知事の秘書をしている方が、「まもなく石山知事が来ますのでよろしくお願いします。」と言って名刺を置いていった。しばらくすると別の秘書の案内で石山知事が入ってきて右手で握手を求めながら

「大道プロデューサーさんですか。佐賀県の石山です。お時間いただきまして有難うございます。今日は折り入ってお願いがあってきました。大道さんを中心にドラマの計画に入っているという噂を耳にしましたが、よろしかったら佐賀県を舞台にした物語にしていただけないでしょうか。佐賀は現在長崎新幹線の建設に取り掛かり、全国からの観光客を集める準備をしています。この時期にドラマの舞台になれば追い風になります。佐賀には吉野ケ里遺跡があり、古代から栄えた地域ですし、幕末から明治にかけては大隈重信や江藤新平、副島種臣など多くの幕末の志士や明治の賢人を生み出しております。ぜひ、主人公にこのなかから誰かを検討してください。」一方的に話す石山知事の話に呆気に取られていたが、大道は

「佐賀県がとても魅力的な県で多くの偉人がいらっしゃることは十分承知しております。まだ、検討中ですので、結果をお待ちください。」としか言いようがなかった。みんなの意見を聞いていると47都道府県を順番に舞台にして回さなければ、おさまりはつかなくなりそうだ。このあとも、県知事が5県、国会議員が8人、トップセールスにやってくることになっている。

 大道は上司である茨山(いばらやま)制作局長のところへ相談に行った。茨山制作局長に現状を話し、いろんな県の要望を聞いていては番組作りができないので、政治的な話は現場に持ち込まないように局長のところで留め置いてほしい旨を直訴した。茨山制作局長は

「よくわかるけど、僕に丸投げされてもどうしようもないよ。君のところでいくつかの案を出して、その中から決定は外の機関に任せるというのはどうだい。NKHの公共放送としての立場も守り、自分たちがやりたいと思う気持ちも通すいい考えだと思わないかい。」

大道はすこし情けない感じもした。政治家の横やりに負けているようでは、放送局としての独自性に欠ける。自分たちの考えで進まなければいけないのに、局長は弱腰だなと感じた。しかし、反面、NKHが責任を回避し、判断を外部機関の意見を参考にしたという形で進めれば、問題も少ないという事で、政治家的な発想だとも思った。

「どこに意見書を出してもらいますか。」

大道が聞くと、茨山局長は

「内容にもよるよ。戦国時代なら毎年のことなので意見書もいらないかもしれないけど、明治時代や江戸時代なら日本史研究の大学教授、天皇を取り上げるなら宮内庁、文化人を取り上げるなら国立博物館なんかはどうだろう。」

茨山局長の意見にうなずいた大道は

「じつは今候補に考えているところが2つあるんです。1つは奈良の(はし)(はか)古墳を舞台にした邪馬台国の卑弥呼。もう一つは北陸と近畿を舞台にした継体天皇けいたいてんのう、この2つです。どちらも古代を取り上げることになりますが、戦国時代や江戸時代は大河ドラマでマンネリ気味なので、思い切って古代を考えています。」

「それはいいんじゃないかな。では天皇制にかかわりそうなので宮内庁に声をかけるという事でいいかな。話はつけておくよ。」

「よろしくお願いします。」

話は決まった。翌日、宮内庁にNKHを代表して大道が出向くことになった。


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