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25,年末歴史ドラマ決定

国立博物館でのマスコミ発表を受け、大きな話題となった永平寺金印。その流れで年末歴史ドラマの部隊も勝ち取ることになる。さらに反保と野坂陽子はその距離を一気に近づけていく。

 国立博物館での記者発表から1か月、11月中旬、世間では紅白歌合戦の出場者や司会が誰になるというようなことが取りざたされていた。そんな中、大きなニュースが飛び込んできた。NKHが2023年から2025まで3年間をかけて年末に年末歴史ドラマと題して放送する番組を福井県や大阪府、奈良県を舞台とした「越の国伝説 男大迹皇子」にすることを発表した。10月の国立博物館での記者発表の余韻も残っている中、反響が大きく、福井を中心とした越国に歴史ファンが注目していた。2020年の大河ドラマで明智光秀が取り上げられ、一乗(いちじょう)(だに)朝倉遺跡の観光客が大幅に伸び、今度は永平寺町の松岡古墳群、坂井市丸岡町の六呂瀬山古墳、そのほかにも多くの継体天皇関係の史跡はこれから大変な賑わいになることが予想された。福井駅前には恐竜のモニュメントが大きなうめき声をあげ、鼻からは煙を出している。それを見る観光客が多数いるが、周りには「『越の国伝説』放送決定」の旗が多数立てられている。ビルの屋上からも垂れ幕が下がり、「越の国伝説男大迹皇子NKH年末歴史ドラマ決定」と記されている。男大迹皇子と聞いて誰のことかわかる福井県人が何割いるであろうか。能の演目の中に「花筐(はながたみ)」という物語があり、男大迹皇子と皇子が愛した(てる)()という女性が出てくる。男大迹皇子が大和で即位するために越前を旅立ってしまうという物語だが、福井県民で福井を舞台にした物語であるという事を知っている人も少ないであろう。今回のドラマの舞台決定は福井県人にも男大迹皇子(継体天皇)のことを知らしめる貴重な機会となるであろう。

地元住民の期待は膨らんだ。福井県知事は北陸新幹線の2023年開業予定がやや遅れそうだという事に異議を唱え

「2023年の年末に男大迹皇子がとりあげられるまでには工期を短縮してでも完成させてほしい。」と国に圧力をかけている。結果的には福井県庁が仕掛けたNKHに対する誘致合戦で奈良県に勝利した格好になった。県民の知らないところで、決め手は反保が掘り当てた金印に間違いない。キャスティングなどは未定だが、福井県立博物館が監修や撮影協力に参加してほしいという要請は既にあった。

 反保はその報告を県立歴史博物館の事務室にいるときにNKHの大道プロデューサーから電話で聞いた。電話を切った後、なぜか佐久間美佳のことを思い出した。

「彼女が福井を推してくれなかったらこんな結果にはなっていなかっただろう。それに金印を発掘することもできなかったかもしれない。彼女が僕を後押ししてくれたんだ。」

そう考えて反保は手を合わせて彼女の冥福を祈った。



 2021年3月20日 野坂陽子(35)と反保裕司(36)の結婚式がとり行われた。2人とも若者というにはやや年齢が過ぎていた。

 結婚式は福井市内のコンパクトだが素敵な結婚式場で行われた。参列者は福井と奈良の県庁関係と歴史学会関係の20人ほどと双方の友人が5人ずつ、双方の家族親戚が10人ずつ 合計50名ほどの少人数の結婚式であった。式に先立って待合室で林田刑事はウェルカムドリンクのシャンパンをもらって野坂家の父親や母親と挨拶をしていた。母親は

「刑事さんのおかげで、調査のためとか言って東京や大阪など随分連れて行ってもらったそうで、おかげで反保さんとのご縁に恵まれ有難うございました。」と言っていた。たしかに、県庁とアパートの往復しかしていなかった彼女が反保とお付き合いに発展したのは佐久間美佳や林田刑事がめぐり会わせたのかもしれない。

 新郎の反保は金印を発掘した時の人として、招待した友人も県立博物館の学芸員や早稲田大学の歴史学科の関係者など学者肌の人が多かった。そんななかで、早稲田大学の中川教授も来ていた。中川教授とは国立博物館でのマスコミ発表以来である。

「中川先生、国立博物館でのマスコミ発表の時にはお世話になりました。佐久間美佳さんをめぐる今回の事件ですが、先生のところに師事した佐久間さん、私、野坂さんの3人が南北朝の争乱の新田義貞、畑時能、尊良親王の末裔ではないかという事が事件に大きくかかわっていたのです。先日、新たな調査結果が出てきて、妄想が広がってしまいました。」

反保が晴れがましい結婚式の席で、恐ろしい話をしたが、中川教授も

「出来すぎかもしれないけど、何百年も前からの恨みや呪いが関係するのではないかという事件は、表には出てきませんが、だいぶあると私も感じています。今回は多くの南北朝越前の戦いの関係者の怨念が金印発掘を後押ししたんでしょうね。」と感想を述べてくれた。

そうこう話しているうちに時間になり、招待客に

「結婚式場への入場してください」というアナウンスがあった。

披露宴会場に隣接したチャペルに入ると正面に大きな十字架、その後ろには大きなガラス窓。その一部がステンドグラスになっている。充分すぎるくらいの明かりがさしている。ガラス窓の下には噴水があり、何とも贅沢なつくりである。招待客が入場しているあいだ、電子オルガンによる、軽快な音楽が演奏されていた。全員が入場し終わると正面の大きなガラス窓に自動でカーテンが引かれ、会場が一気に暗くなった。電子オルガンは教会のミサ風の曲を演奏しはじめ、スポットライトが会場後方の扉を照らした。扉があくと真っ白いウエディングドレス姿の野坂陽子と野坂のお父さんが立って一礼している。ゆっくりと入場してきた野坂陽子は、いつものような薄化粧ではなくばっちりメイクをして、目鼻立ちもくっきりして、いつもにも増して美しかった。肩もあらわに大胆な露出で胸元も大きく開け、ウエストも極限まで絞っている。会場の正面で待つ反保君のところまで来るとお父さんは彼女を反保君に託し、席に戻っていった。反保君は黒のタキシードで背も高く、かなりの男前である。1年前にあんな事件がなかったら、こうなっていなかったかもしれない。佐久間美佳と結婚していたかどうかは別にしても、反保と野坂がゴールインすることはなかったかもしれない。林田はそんなことを考えながら式を後ろから眺めていると、そのあとは淡々と誓いの言葉、指輪の交換、契りのキスと淡々と進んでいった。約30分で結婚式は終わった。会場を出ると写真撮影の準備が整っていた。最近の式場は堅苦しいひな壇での写真撮影ではなく、大階段の下に参列者が集まり、全員が階段の上で構えるカメラマンを見上げて自然な感じで撮影するらしい。みんなが並んでいると、主人公の2人が大階段の上から登場して、仲良く腕を組んで階段を下りてきた。2人とも満面の笑みである。降りてくるとブーケトス。2人を中央に据えて写真撮影。終了後すぐに披露宴会場に入るように急かされた。50名の結婚式なので披露宴もそう大きな宴会場ではない。最近の流行なのか中央のひな壇もそう派手なわけではない。バブル全盛期には招待客も100名を超え、中央ひな壇横には巨大なウエディングケーキが設置され、会場の両サイドにはステーキを焼いてくれるシェフがいたり、寿司を握る職人がいたり、派手な結婚式だった。時代の変化を感じるが、今の時代は新婚旅行や新居にお金をかけるらしい。

会場に入ってしばらくすると、新郎新婦が入場してきた。司会の方があいさつした後、いよいよ新郎側の主賓挨拶は福井県立歴史博物館館長である。いろいろと反保君の業績、特に金印発掘について褒めたが、大学卒業後にどこも就職できず、福井県教育委員会に来たことは言わなかった。

披露宴の最後に新婦の野坂陽子が両親にあてた手紙の朗読があり、会場はしんみりとして涙を誘った。最後の最後に反保君が両家を代表してスピーチをした。

「本日は私たち2人のためにたくさんの方々にお集まりいただきありがとうございました。また、皆様方にはたくさんのお祝いをいただき、感謝の気持ちでいっぱいです。この場を借りてお礼申し上げます。私は昨年7月、2023年から始まるNKHの年末歴史ドラマの舞台を福井にするための企画をスタートさせました。奈良県の箸墓遺跡の卑弥呼 対 福井県の松岡古墳群の男大迹皇子、継体天皇の争いになりました。なかなか決定打を見つけられずにいたのですが、永平寺金印を発掘することができました。みなさんは信じられないと思いますが、あの金印を発掘出来た瞬間は天の声が聞こえたんです。『あなたは特別な存在なんだから、自分の力を信じなさい。自らの心を信じて進みなさい。』そんな声が聞こえて、神経を集中させたらあの場所ではないかと感じたんです。僕は佐久間美佳さんとこの野坂陽子が僕に教えてくれたんだと確信しています。三人は南北朝時代の新田義貞と尊良親王、畑時能の末裔にあたることを偶然知りました。僕の今回の金印の発掘は多くの方の力で成功したものであり、皆様方に感謝しなくてはいけないと思っています。また、今回の発掘が日本の古代史の発展に寄与できることと確信しております。また、福井県や永平寺町の観光面に貢献出来たらと思っています。私たち二人は若輩者でございますが、今後ともご指導ご鞭撻いただければと考えています。本日はありがとうございました。」反保君のスピーチは事件の関係者には感慨深い内容であったが、それぞれの家族など内容を知らない人には難解な話になった。

結婚式・披露宴ともにつつがなく終わり、反保と野坂は、新婚旅行を後回しにして、とりあえずは反保の学会での発表に全力を挙げることになった。



マスコミ発表を終えたs反保たちは次にいよいよ学会での発表となる。学会では専門家からの厳しい質問が予想される。反保は乗り切る事ができるのか。

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