22、金印の発見
反保と野坂は佐久間美佳の事件が一様の解決を見てお互いに引かれあい、結ばれる。さらに2人と佐久間美佳、3人の先祖から受け継がれた不思議な力が奇跡を産む。2人が発掘する大切なものはその後の歴史的な学説に大きな足跡を残すことになる。
昨晩は結局反保もセンテンホテルに泊まってしまった。チェックアウト前に反保は隠れるように部屋を出て、車を止めた駐車場へ行き、再びセンテンホテルに戻り、 野坂陽子を乗せた。昨夜のことを思い出すと顔が赤くなってしまうような気がしたが、彼女も昨夜のことを思い出し、運転する反保の方を見ながらうっとりした顔をしている。気分を入れ替えないと事故を起こしてしまいそうな気がして反保は今日の作業について話を振った。
「今日の作業だけど、君も今日中に奈良に帰らなくてはいけないだろ。お昼までで作業を終えようか。」と言うと
「そうね、お昼まで作業して一緒にお昼を食べて、2時くらいに電車に乗れば奈良には5時くらいには着きそうね。」
明るい表情だが別れたくなさそうな感じも見受けられた。
車は30分ほどで二本松山古墳の駐車場に着いた。少し歩いて作業再開である。林田が付けてくれたマークはあと10か所程度だ。慌てることなく丁寧に掘り始めた。今日の日差しも朝から強い。秋の気配はしてきているが温暖化のせいかいつまでも夏のような日差しだ。汗を流しながら掘り出しながら2人は会話も楽しんだ。
「ねえ、反保君、どうして今まで結婚しなかったの。」
35歳の独身男女が会話を始めるとどうしてもこの話題が避けられない。昨夜は抱き合った仲だが、結婚となると話は別である。野坂陽子は反保のことを大学生のころから秘かに思い続けてきた。反保もそのことは十分に分かっている。しかし、佐久間美佳とのことがあり、彼女の思いに答えられないで来たのだ。しかし、今は佐久間美佳はいない。いや、佐久間美佳の事件があったからこそ野坂陽子との関係が深くなってきたのだ。そろそろ答えてあげないといけないかな。そんな思いも頭をよぎる。東京と福井と2回も愛し合って、彼女の美しさ、優しさ、いろいろな面に触れた。もう佐久間美佳はいないんだ。そう思うと
「そうだね。どうして今まで結婚しなかったのかな。僕の頭の中には佐久間美佳さんと野坂陽子さんの2人がいつもいて、どっちも選べなかったんだ。どっちも好きだったんだ。佐久間美佳が死んでまだ3か月だからふんぎりがつかないけど、もう少しだけ待ってくれ。」と彼女の方を見ながら打ち明けると彼女も目に涙を浮かべながら
「そうだよね。親友が死んだばかりだもんね。ごめんね。私も待つわ。」と言ってくれた。
いろいろ話しているうちに林田がマークしてくれた場所は全て調べてしまった。
野坂陽子はマークを調べ終わってしまった焦燥感から少し諦めたのか
「反保君、もし君の仮説通りだとして、男大迹皇子が高句麗との軍事同盟を破棄したとしたら、彼は高句麗から越国へ送られ、代々受け継がれた金印をどうしたと思うの。」と聞いてきた。すると反保は
「大伴金村の目の前で高句麗との軍事同盟を破棄することを見せつけなくてはいけないので、部下に命じて穴を掘らせて埋めてしまうと思うんです。だからこそ、大伴金村と接見した場所が重要で、その場所は先祖代々の越の国の王たちが眠るこの古墳群であり、直前の王の墓であるこの二本松古墳だと思うんです。」と力を込めてかたった。野坂は
「それじゃ、2人はこの古墳のどのあたりに座ったのかな。」と1500年前の出来事を妄想した。すると反保は
「少し高い円墳の頂上付近は祭祀関係の物が置かれたと思います。我々が立っている低い方墳の円墳に近い方に男大迹皇子が座り、大伴金村は下座、つまり円墳から遠い方に座らせたと思うんです。」と想像した。
「だったら、男大迹皇子は家来にどこに穴を掘らせると思いますか。私は2人が座ったちょうど真ん中に彫らせたんではないかと思います。」と野坂が話した。
そしてその時は突然現れた。野坂陽子と2人でまだ掘ってない方墳中央部のところを眺めていると、2人の脳裏に佐久間美佳の声が聞こえたような気がした。3人分の意識を集中して視点を方墳中央の一箇所に定め、掘る場所を決めた。掘り始めるとしばらくして反保の小さなショベルに何か金属の塊が「カチン」と音をさせて当たった。そこからは現場に緊張が走った。
「何かあたった。」
反保の声に野坂陽子も声を上げて近づいてきてのぞき込んだ。
「ここからは特に慎重に」
反保が自分に言い聞かせるように独り言を言って、ショベルをはけに持ち替えて、埋まっている何かにこびりついている砂や土をこそぎ落としていった。少しずつ、少しずつ。決着がついたのは11時を回っていた。1時間以上対決していた。その間、息をのむ緊張感の中、反保は一心に願いをこめていた。
「出てこい、出てこい」
それは、土にまみれているので光こそ放たないが、金属、それも金の塊のようであった。研究室に戻って水洗いして磨いてみないとはっきりしないが、かすかに金の輝きが見える。形は金印のように感じた。息をのんだ。これが金印ならば大発見である。印面には何と書かれているのだろうか。憶測が頭をよぎる。反保は興奮を隠せないでいた。発掘品をビニール袋に入れ、大事にリュックサックの中に入れた。
野坂陽子は奈良へ帰れなくなってしまった。歴史的大発見に居合わせたチャンスを逃すわけにはいかず、明日は休むことにした。県立歴史博物館に戻った2人はさっそく洗浄作業に取り掛かった。相手は金属なので少々のことで壊れたりはしないが、慎重に作業を進めきれいにするとその金属は正体を現した。
「金印だ。」
志賀島の金印は博物館まで大学時代3人で行ったことがあって、その時見た金印とよく似た大きさだし、よく似た様相だ。四角柱の上に持ち手があり、何かわからないが見事な細工がしてある。印面には「親那越王」と彫られている。那とはどういう意味だろう。2人で日曜日の夜、ずーと考えていた。野坂がインターネットで試しに高句麗を検索してみた。すると
「高句麗、朝鮮半島北部、今の北朝鮮から中国東北部にかけて支配した国家。多民族国家で・・・・高句麗人たちは那、または奴とよばれる多数の地縁的政治集団を形成し、各那集団には大加、諸加とよばれる首長層がいた。」と言うような記述があった。ネット情報なのでうのみにすることは出来ず、反保が文献を調べてみた。するとやはり那と言うのは高句麗では重要な政治集団のようで、高句麗を指す言葉のようであった。
日曜日の夜、金印の発見で興奮した2人は研究室に金印を置いていくわけにもいかず、結局反保が住む市内のマンションに一緒に持ち帰り、2人でまた一夜を共にすることになってしまった。昨日ほどきれいな部屋ではなかったが、歴史的発見に気分が高揚し、これからの反保と野坂の研究者としての活躍が見えるようであった。当然この夜も2人は、愛を確かめ合った。
金印の発見に沸く福井県だが、本物かどうかの鑑定には、また保守系の政治家からの横やりが予想される。彼らはその困難をどう乗り越えていくのか。感想とブックマークをお願いします。




