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17,新たな展開

ようやく関口議員の秘書が事件に関与しているのではないかというところまで突き止めたが、その秘書にはアリバイがあることが分かった。しかし反保の職場で意外なことからアリバイを崩すことになる。そこから事件は意外な方向に進んでいく。

 関西を調査して回った反保と林田は福井に戻った。林田は佐久間美佳の事件を継続して翌日からまた聞き込みを行うが、反保はそう休んでばかりはいられない。通常勤務で働かなくてはいけない。11階の福井県教育庁の文化課で古墳の発掘作業の準備をするのである。

 文化課の隣のフロアには義務教育課のデスクがある。義務教育課は知事部局の県庁職員ではなく小中学校の先生たちが人事異動で行政に派遣されてきている人が多い。だから行政の仕事に慣れてない人も多く、総務係の県庁女性経理係の人から指導されることも多い。反保が耳を澄まして聞いていると今年から派遣されてきた先生が東京の文部科学省での会議出席のために出張伺いを出すやり方について指導を受けていた。

「東京の文部科学省での会議があるので前日に福井を出て前泊で伺いを出したのですがダメでしたか。」と新人の先生が経理係の女性に聞いている。

「先生、何回も言っているでしょ。会議のスタートが12時過ぎなら当日の朝出発で日帰りを計画してください。監査委員のチェックが厳しくなって、前泊が認められないケースが増えているんです。」と答えていた。反保は東京の日帰り出張はきつそうだなと聞きながら思っていた。若手の先生は食い下がっている。

「12時までに文部科学省に入るには福井を何時に出ればいいんですか。朝早すぎても超過勤務になって、働き方改革に反すると思いますが。」というと経理の女性も負けじと

「ネットで福井、東京で例えば7時過ぎに出発するとして検索してみてください。名古屋からのぞみに乗り換えれば東京まで3時間半です。7時に出れば10時30分には東京駅です。新幹線はスピードアップしてますよ。」と皮肉っぽく話していた。反保はそんないい方しなくてもいいのにとその先生が少し哀れに感じた。しかし、そんな話題をどこかで聞いたことを思い出していた。何だったか、なかなか思い出さない。最近の出来事を順番に思い出しながらようやくある事に気が付いた。そしてゆっくりと福井県警の林田刑事の電話番号に電話をかけていた。


「林田さん、関口議員の秘書の松村さんにはアリバイがあると言ってましたね。」

電話口で林田が

「そうです。東京の警視庁の杉山さんが言ってました。」

「でもね、松村さんは5時30分に防犯カメラに映っていたんですよね。場所は福井市の中心部のホテルを出たところで。そして10時からの国会議事堂近くでの総理との朝食会に出席したんですよね。でもね、福井と東京の交通では以前は4時間近くかかっていましたが、今では3時間半なんです。5時30分に足羽川に架かる橋のたもとで姿を消し、佐久間美佳を川に突き落とし、すぐに福井駅に歩いて5分で戻れば6時ちょうどのしらさぎに乗れます。そして米原で新幹線ひかり636号、さらに名古屋でのぞみ86号に乗り換えれば東京には9時36分に着くんです。東京駅からタクシーに乗れば首相との朝食会に間に合うと思いませんか。」林田は自分の思い込みを反省した。そしてすぐに警視庁の杉下刑事に連絡を取った。


事件は急展開した。松村秘書のアリバイが崩れ、映像に映っていたのはやはり松村秘書だろうという事になり、警視庁に福井県警との合同捜査本部が設置された。福井県警にも合同支部が置かれ東京とオンラインで結び、相互に意見を交換できる環境が整えられた。

本部長は警視庁の森内課長、捜査員として杉下と横山も顔を連ねた。福井の支部には田邊課長が副本部長として福井の捜査を指揮し、林田刑事も捜査員として参加していた。

 合同捜査会議では捜査方針が森内本部長から示された。森内課長は

「今回の事件は民自党保守派を中心とした右傾化の行き過ぎた活動が表面化した形であり、警視庁公安部の活動領域ともいえるかもしれない。最近の国政レベルの選挙で保守勢力が大きな勝利を挙げていることから右傾向の勢力の横暴さは目に余るものがあると思って来た。左翼勢力のデモ活動にも目に余るものはあるが、そのデモを威嚇する右翼勢力のヘイトスピーチは自分たちの勢力以外を許さないという風潮があり、戦時下の国家総動員体制に近づきかねないものがある。今回のNKH年末歴史ドラマの舞台を選ぶ案件でも保守派の掲げる男系男子の天皇の血統を絶やさないという趣旨に反するという事で、継体天皇を取り上げようという意見を出そうとした佐久間美佳さんを殺害した容疑がかかっている。しかし、殺害したという確固たる証拠はまだない。殺害現場の特定と殺害方法、目撃者の捜索などは現場となった福井県警にお願いすることとする。警視庁の捜査員は重要参考人である松村秘書の周辺を捜査し監視体制を固めて欲しい。福井で捜査が始まると必ず何らかの動きを見せると思う。その動きを見逃さないように心してくれ。以上」と語った。続けて福井の捜査本部福井支部の田邊(たなべ)副本部長は

「福井の方の捜査方針を説明します。今までは捜査員1名であたっていましたが、捜査員を30名に増やし、最終的に防犯カメラで確認された足羽川の幸橋周辺を徹底的に捜索し、物証を発見することに重きを置きます。さらに早朝の足羽川堤防ですがランニングをする人や散歩をする人は必ずいるので目撃者の発見に全力を上げていきます。福井県警を上げて成果を上げるように。以上」と捜査員にはっぱをかけた。続けて各係ごとの打ち合わせになり、林田刑事は幸橋付近で物証を探す係の主任になった。担当者は刑事が5人、応援の警察官が30人、捜査本部の打ち合わせでは刑事5人がテーブルを囲んで集まった。

「現場捜索班主任の林田です。今回の捜索範囲は足羽川の幸橋北詰から東西それぞれに次の橋まで500mずつ、合計1キロに渡って被害者の佐久間美佳さんと加害者とみられる人物につながる物証を捜索することになります。今回の事件はどうやって死に至ったのかがいまだに不明で、事故なのか事件なのか、自殺なのか他殺なのかまだわかっていません。どんな小さな証拠でもいいので死に至った謎を解明する発見を期待しています。佐久間美佳さんは防犯カメラの映像で最後に確認されるときにホテルをチェックアウトしているので旅行かばんも持っているし、小物を入れたポーチも持っています。三国で発見された時には何も持っていませんから、いろいろなものが散乱しているのではないかと考えられます。どうか慎重に探してください。30人の捜査員を幸橋北詰付近で半分に分け、15人ずつ上流へ行くグループと下流へ行くグループに分けます。では明日の朝、8時開始という事で現場に集まってください。以上です。」と言って打つ合わせは終了した。


 翌日は8月4日、朝8時集合で30人の警察官と5人の刑事が足羽川幸橋北詰に集まった。30人の警察官は機動隊や所轄の捜査員、交番の職員などをかき集めて編成した。

 30人の捜査員を前に林田刑事が朝の挨拶と捜査方針を説明した。最後にどんな細かい事でもいいので見つけたら報告するようにお願いした。8時15分には河原の葦原や堤防の芝生の中などローラー作戦で隈なく探し始めた。川の中にも捜査員が数名、ボートに乗って川底を網ですくいながら探している。

 午後3時ごろ林田のところに小さなバックが見つかったという知らせが入った。中には携帯電話があるという事らしい。現物が到着したのは知らせが入ってから10分くらいしてからだった。捜査員の話ではそのバックは幸橋から下流に100mくらい行った桜橋と言う橋の近くで、葦の湿地で水に浸かった状態で発見されたらしい。林田が慎重にチャックを開けると中にはアイフォンが1台、化粧品が数種類、ハンカチが1枚、小銭入れが一つ、中には430円分の硬貨が入っていた。持ち主を特定するには至らなそうである。アイフォンは水にぬれていることもあり電源は入らない。

 林田はアイフォンに望みをかけて福井県警の科学捜査班に持ち込むことにした。アイフォンはアップル社が製造販売している携帯電話だが、水には弱い。しかし、上手に乾燥させると生き返ることもあるのはみんな経験があるだろう。科学捜査班の捜査官は携帯電話を扱うことは多くなったので実によく勉強している。持ち込まれたアイフォンを見て

「これは電源回復まで行くかな? やって見ますが電源が入らなかったらデータを復元することは難しいと思います。」と言っていた。林田はとりあえず科学捜査班に携帯電話は任せて福井県警本部5階の捜査本部に戻った。

県警本部の田邊課長に発見した携帯電話について報告し、聞き込みをしているグループと東京の捜査の進展状況を聞いた。

「課長、聞き込みグループは何か出ましたか。」と聞くと田邊課長は

「今日は目撃証言は出なかった。しかし明日は犯行時刻と同じ5時半くらいから堤防を歩いたりする人に聞き込みをするそうだ。きっと誰か見ていると思うよ。」と教えてくれた。「課長、東京の情報はどうですか?」と聞くと

「東京では関口議員の事務所にはまだ接触していないけど、捜査本部が立ち上がったことはマスコミを通じて情報は流したらしい。松村秘書やその他の秘書たちにも張り込みをつけたらしい。きっと明日あたりから動きがあるんじゃないかな。」と分析していた。


翌日は早朝から足羽川の堤防を散歩したりランニングしたりする人たちに7月12日の早朝に佐久間美佳を見てないか聞き込みがあった。林田は聞き込みを手伝うことになり、堤防を早朝ランニングする人たちに協力を仰いだ。何人も聞いたが、なかなか有力な情報はなかった。しかし、5人目くらいで、40代くらいの男性に話を聞けた。林田ははその男性と並走しながら

「トレーニング中、失礼します。毎日走っていらっしゃいますか。」と聞くと

「はい、ほぼ毎日同じ時間に走っています。」と答えてくれた。すかさず

「7月12日,午前5時30分、ちょうど今くらいに旅行客風の赤いスーツの上下の30代くらいの女性と40代の黒っぽいスーツを着た男性がこの堤防付近を歩いているのを見てませんか。」と走りながら言うと、その男性は急に足を止めて

「あ、覚えてますよ。すごい美人の女性でしょ。早朝5時半に真っ赤なスーツ姿なんてほとんどいないからよく覚えています。それに顔を見たら美人だし、スタイルは抜群だったし、『きれいな人だな』と思ったので覚えているんです。一緒にいた男性は40代くらいだったから年が離れていそうだったので夫婦ではなさそうだし、不倫関係で朝までどっかのホテルにでもいたのかなと考えました。」と教えてくれた。

「2人はどんな様子でしたか。」と質問を続けると

「ちょうどあの桜橋の真下のあたりで立ち止まって話していました。やけにしんみりした感じだったので別れ話になったのかと感じました。」

桜橋の真下で周りからは死角になる場所なので目撃情報が少なかったのだろう。

 2人を目撃したという男性の証言では堤防の上の歩行者用の道を走っていると、2人は桜橋の近くで堤防から川の方へ降りた河川敷の葦の原の近くで向き合って話し合っていたらしい。2人は言い争っているようにも見えたので、不倫カップルが別れ話で喧嘩しているのかもという感じもしたらしい。目撃したその人はそのまま桜橋を越えて次の九十九橋まで行き、戻ってきたときには2人ともいなかったが、次の幸橋付近で男性だけを見かけたということだ。女性は見なかったと言っている。



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