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14,関口議員の関与

福井のホテルの防犯カメラに写っていた謎の男の写真を鮮明に修復することのできた横山たちは写真をもとに国会周辺で捜査を始める。最初は難航するが意外な場所でその人物を知る人に出会う。捜査の手は保守派の大物である関口議員に行きつく。いよいよ捜査は本丸へと入ってくる。

翌日から杉下と横山は写真を持って国会議事堂周辺を聞き込みにあたった。まだ相手に捜査の手が伸びることを悟られないためにも秘密のうちに聞き込みを行わなくてはならない。杉下は横山に捜査の手法を教えるためにも2人でいっしょに各所で聞き込みを行った。国会周辺の警察官、議員会館の守衛、国会議事堂の職員、いろいろなところをあたるがなかなか有力情報にはたどり着けなかった。

しかし、国会議事堂の警備関係の職員に聞いてもわからなかったので、国会議事堂前の食堂へ行ってみた。国会議事堂内の食堂は国会議員しか利用できないが、敷地の外のこの食堂は国会議員やその秘書、陳情に来た地方の首長や議員たち、いろいろな人が利用できる大きなレストランである。中に入るとお昼時は過ぎていたので利用者は10人ほどだったが、厨房の調理員の女性たちは食器の洗浄や後片付けで大忙しだった。杉下と横山が空いているテーブルに座った。すぐに注文を取りに来たウェートレスの女性は30代と言ったところだ。中肉中背で制服のミニのタイトスカートが腰回りのふくよかな肉ではち切れそうだった。お昼の営業で少し疲れているのかあまり元気はなかったが、背広姿の2人の男性客に作り笑い気味の笑顔で

「いらっしゃいませ、何にしますか。」と言って話しかけてきた。メニューを見ながら

「コーヒー2つ」と注文すると左手に持ったメモに何か書き込んで厨房へ速足で行ってしまった。しばらくするとさっきの女性がお盆にコーヒーを2つ乗せて来てくれた。

「お待たせしました。コーヒー2つですね。」と言ってコーヒーをテーブルに乗せてくれた。杉下はありがとうと小声で言ってコーヒーを自分の前に置くと

「あの、君はこの店長いの?」と聞いた。すると彼女は

「高校を卒業して東京に来てからずっとここなので15年くらいになります。」と答えてくれた。かなりのベテランである。最近の若い人には珍しいタイプである。ほとんどの子が就職しても長続きしない中で、最初の就職先で15年続くのは貴重である。

「地方出身なの?」と横山が聞くと彼女はためらわずに

「新潟です。親戚が東京にいるので出てきました。」と答えてくれた。素朴な感じの子だ。

「ここの仕事はお給料どうなの?」と杉下が聞くと

「生活は厳しいですが、このあたりは夕方は早くに終わるので、夜は別のところで働いています。」と苦労しているようだ。

「東京の生活は地方の人には金銭的にも大変そうだね。ところでさ、ここで15年も働いていると知り合いも多いでしょ。国会関係者もたくさん来るだろうけど、この人見たことないかな。」と言って例の写真をこっそりと見せた。

「あなたたち、刑事さんですか。」と聞くので杉下が軽くうなずいた。彼女はその写真をじっくりと見て

「この写真の人ですね、見たことありますよ。よくこの店を利用されます。」と言って横山刑事の耳元に唇を寄せて

「関口議員の秘書さんです。たしか松村さんだったかな。」とひそひそ声で話してくれた。

杉下は彼女の制服の胸に着いた名札を見て

「ありがとう、吉村(よしむら)桂子(けいこ)さん」とお礼を言ってコーヒーを一口飲むと立ち上がり外へ出た。

 警視庁に戻ると森内課長に状況を報告した。課長は

「核心に迫ってきたね。でも殺人とは断定できないから任意で引っ張ることもできないよ。福井県警が行った死体検分でも殺されたという証拠は出てないんだ。とりあえず松村秘書を直撃して7月12日の行動を聞いてみるか。それで出方を見よう。」ということになった。


 その日のうちに議員会館の関口議員事務所に2人は足を運んだ。関口事務所は衆議院第1議員会館の6階の中央に位置し、ひっきりなしに人が出入りするにぎやかな事務所だ。横山が関係者らしい人に松村秘書がいるか聞いてみると

「松村秘書は関口議員と国会内で職務中です。」という回答だった。仕方がないので廊下で待機させてもらうことにした。しばらくすると関口議員が関係者を連れて帰ってきた。

「松村秘書はいらっしゃいますか。」と横山が聞くと

「はい、私ですが。」と40代らしい男性が返事をした。確かにあの写真の人物である。

「お忙しいところ申し訳ありません。警視庁捜査1課のものですが、少しお話を伺いたいのですが、よろしいですか。」とお願いすると一緒にいた関口議員が

「刑事さんが何の用事ですか。うちの事務所に来るという事はそれなりの覚悟はあるんだろうね。松村くん、きちんとご協力しなさい。」と言って奥に入って行ってしまった。強烈に高飛車な態度に横山は恐れをなした。杉下は冷静に

「それじゃ、松村秘書。ここでよろしいでしょうか。」と言うと廊下での立ち話になった。

「松村さんによく似た人物を7月12日の朝、福井で見たという人がいるんですよ。7月12日の行動について教えていただけませんか。」と言うと手帳を確認して

「少し待ってください。あ、ありました。10時から私は東京で関口議員と一緒に政友会の研究会を兼ねた朝食会に出席しました。夕方は首相との会食のため関口議員が赤坂の料亭に行きましたので同行しています。」と答えた。杉下は

「朝は何をされていたんですか。」と冷静に問い返した。

「朝ですか、朝は家でゆっくりしていたと思います。朝食会の会場で議員と待ち合わせでしたから。」と松村秘書は答えた。横山刑事は少し残念な表情を見せた。朝食会に出ているという事はその日の朝に福井で犯行を行う事は出来ない。映像に映っていた人物は松村秘書ではないという事になる。杉下は

「どうも、ありがとうございました。また、お伺いするかもしれませんがよろしくお願いします。」と挨拶して議員会館をあとにした。

警視庁の戻った2人は福井県警の林田に電話を掛けた。

「林田さん、関口議員の秘書に会って来ました。国会議事堂近くのレストランのウェイトレスの話では映像に映っていた人物は関口議員の秘書の松村さんに似ていると言っていたんですが、松村秘書に当日のアリバイを尋ねると7月12日の10時には国会議事堂近くのホテルで政友会の朝食会に出席しているんです。アリバイが成立すると思うんですけどね。」と話した。林田刑事は

「残念ですね。尻尾をつかんだと思ったんですが。でもカメラに映った人物がいたことは間違いないので、もう少し他の人物をあたって見てもらえませんか。こちらも福井の関係者でよく似た人物がいないかを探してみます。ただ、私は腑に落ちない点が実は一つあるんです。それは朝が早すぎるという事です。もし、関口議員の秘書の松村さんが『お願いしたいことがある』と言ってきたところで佐久間美佳さんが5時30分にホテルをチェックアウトすると思いますか。時間指定をして早くても午前9時ころに会いましょうと言うのが普通ではないでしょうか。そこには何か他の要素があるように思えてならないんです。悪く考えると佐久間さんは何か脅されていたのではないでしょうか。佐久間さんについてももう少し調べてみることで事件の全容が見えてくるような気がするんです。」と答えた。林田刑事に何か確信があったわけではなかったが、佐久間美佳の行動があまりに突拍子がなかったのである。


林田刑事は福井県庁の反保にもこの件を話した。県警と福井県庁は隣り合っていて地下はつながっている。近いので県庁の1階ロビーに反保を呼び出した。1階ロビーで待っていると11階から反保は下りてきて林田に挨拶しながら近づいて来た。

「林田さん、ご苦労様です。東京の警視庁の方も動いてくれているんですね。でも、あの映像が関口議員の秘書の松村さんではないとすると誰なんでしょうね。他に関口議員関係で似ている人もいるんじゃないんですかね。」と諦めきれない感じだった。そんな反保に

「ただね、僕が腑に落ちないのは佐久間さんがどうして5時30分にホテルをチェックアウトしたかという事なんだ。誰かに呼び出されたとしても5時30分はないだろ。普通なら話があると呼び出されても、9時以降が妥当なところだよ。5時30分なんて脅されているか東京で用事が出来て早く帰らないといけなくなったかとしか考えられないよね。そこで、佐久間美佳さんについて改めて調べてみる必要性を感じているんだけど、君もこの話に乗らないかい。」といっしょに調査することを提案した。反保は

「そうですね。実はその点については僕も疑問に感じていたんです。調べるというと東京ですか、それとも彼女の出身地の大阪ですか?」

「もちろん大阪からスタートです。」

林田の言葉に反保はワクワクするものを感じながら

「それじゃ、野坂陽子も誘っていいですか。僕たち不思議な縁がありそうなんです。」と言って彼女を誘うことにした。


事件当日の佐久間美佳の行動に疑問を持った林田刑事と反保は野坂を誘って佐久間の故郷へ行って出生から調べ直すことにする。この調査が3人の同級生の深いつながりを明らかにする。はたして3人の深い関係はどのようなものだったのか。

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