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13,警視庁の協力

福井のホテルの防犯カメラ映像に写った怪しい男の存在と東京での反保たちの調査で一部の保守系議員を中心とした保守勢力が圧力をかけていた情報から、福井県警は東京の警視庁に捜査協力を願い出ることになる。東京ではベテラン刑事と若手刑事のコンビが国会周辺をあたる。また福井から送られた映像は科学捜査研究所に送って解析してもらう事となる。政治家が絡んだ大事件へと発展してくる。

 警視庁捜査1課長の森内から福井の事件の協力担当を命じられたのは杉下(すぎした)刑事(59)と横山(よこやま)刑事(24)のコンビだった。杉下刑事は定年間近で指導係を兼ねている大ベテラン。横山刑事は所轄の城西署で刑事経験はあるものの重要案件を扱う警視庁本庁ではまるきりの新人だった。森内課長から呼び出しを受けた2人は課長室に入り、かしこまって課長の前に立った。森内課長は杉下刑事の方を見ながら

「杉さん、定年まであとしばらくだけど、一つ頼みたいことがあるんです。所轄に回してもいい案件なんだけど、もしかしたらとてつもなく大きな事件に発展するかもしれないヤマなんです。まだ大人数で取り掛かることはできないけど、まず尻尾をつかんでほしいです。若い横山君を指導しながらになるけど、よろしくお願いします。」

課長とは言え定年間際のベテラン刑事に丁寧な言葉使いで秘密の捜査を依頼した。杉下刑事は

「課長さん、言われたことは何でもやりますから、回りくどい言い方はやめて、どんな内容なのか話してください。」と言って頭を掻いている。横に立っている横山は何が何だか分からない感じだが、大きな山に発展するかもと言う言葉に興奮している。

「実はね、福井の九頭竜川と言う川の河口で宮内庁の佐久間美佳という女性職員が死体で上がったんだ。東京ではあまりニュースになってなかったけど、その佐久間さんはNKHから年末歴史ドラマの意見書を任されていて、最終候補になった奈良県と福井県を調査していたんだけど、死亡推定時刻寸前の防犯カメラ映像に正体不明の男と一緒なところが映っていたらしいんだ。しかも福井県警の調査ではこの佐久間さんに接触してたのは福井県と奈良県の関係者だけじゃなくて、民自党保守派の関口議員の関係者もいたというんだ。福井県が舞台になると継体天皇を扱うことになるんだけど、継体天皇と言うのは越前の国から大和の国に迎えられて王になった経緯があり、戦前はその研究そのものがタブーだったらしい。民自党保守派は天皇の系統は2600年以上にわたり男系男子で繫がれた世界でも唯一の血筋であることが重要で、守らなければいけないアイデンティティーと言えるんだ。国民的歴史ドラマである年末歴史ドラマに継体天皇を登場させるというのは、絶対に避けたい内容であり、国民の関心が継体天皇に向いて、現在の天皇の血統に疑問の余地を残せば、保守派としては大きなマイナスだ。そこで、NKHから依頼を受けた宮内庁の佐久間さんに圧力をかけていた。そんな中で佐久間さんが水死体で上がった。捜査しないわけにはいかないだろ。現在のところは事件性が認められないので、事故として処理されそうなんだけど、事件になって民自党保守派の国会議員がからんだ殺人事件となったら、民自党政権に大きな痛手になりかねない。安田(やすだ)総理就任から民自党内の保守派が勢力を拡大し、右傾化が進んでいる中で起きた事件という事になると、我々警視庁としても厳正に立ち向かわなくてはいけない。杉下刑事には退職前ではありますが、福井県警から送られてきた防犯カメラの映像をしっかりと確認して、民自党保守派の中にこの映像の人物がいないかを捜査してください。」

杉下刑事と横山刑事は背筋が凍るような感触で立っていた。まだ、殺人事件と断定はできないが相手は民自党保守派。右翼活動家とも繋がりがありそうな相手とあって、かなり危険を伴うかもしれない。慎重の上にも慎重な捜査が必要である。


 福井県警から送られたデータが入ったUSBと手紙を森内課長から預かり、デスクに戻った2人はさっそく防犯カメラ映像のデータを再生してみた。手紙によると死亡推定時刻は7月12日の早朝、カメラ映像がとられたのは7月12日午前5時30分とある。ホテルでチェックアウトをした直後、男性が合流し外の道に出ると北の方向に向かい、足羽川と言う川の橋のたもとでその姿は消えている。そのため、2人は河川敷に下りて、橋の下で川に突き落とされたのではないかと福井県警は想像していると書かれていた。

 杉下刑事は画像のなかにでてくる男の映像を見て

「これでは犯人を特定することは難しいな。顔がはっきりとは特定できないかもな。何とかならねえのかな。」と横山刑事に呟いた。横山刑事は

「杉さん、この画像は科捜研に持って行くと補正してくれるかもしれませんよ。福井県警では画像を補正できなかったかもしれませんが、警視庁の科捜研は最新機器で画像処理して捜査に使ってますから、持ち込んで頼んでみますよ。」と言ってデータの入ったUSBをコンピュータから抜き取って封筒に入れて背広の胸ポケットに入れ、部屋から出ていった。杉下刑事は咄嗟に

「おい、USB、取扱注意だからな。絶対落とすなよ。」と言ったが横山は後ろ向きに手を振ってわかってますよという合図をして走り去った。


5時間ほど経った午後7時ごろに横山刑事は警視庁に戻ってきた。杉下はデスクで関口議員の関係者について調べて待っていたが、帰ってきた横山刑事に

「遅かったな。何かわかったか。」と問いかけた。横山は

「さすがは科捜研ですね。見事に修正をかけてくれました。福井県警に連絡してオリジナルのデータを科捜研に直接送ってもらって、そのオリジナルデータで復元したので、今の段階でできる最高の復元です。これです。」と言ってUSBを横山のデスクのコンピュータに差し込んで最新のデータを再生した。そこにははっきりと顔を識別できる映像が出来上がっており、赤いスーツの佐久間美佳と紺のスーツを着た40代の男性が歩く姿が映っていた。画像の最後にはその男性の拡大写真が付けられていて、その写真を横山は2枚プリントアウトした。すぐに印刷機のところへ行き、カラープリントされた写真の1枚を杉下に渡して

「この男、福井の人間ですかね、東京の人間ですかね。」と杉下に聞いた。杉下は

「まず間違いなく東京の人間だと思うよ。信じたくないけど保守派の政治家が絡む事件のような気がするよ。念のため福井県警の林田とか言う刑事にも電話して送ってやれよ。」と横山に指示すると横山は課長から渡されていた手紙に書いてあった福井県警の林田の番号に電話して、メールアドレスを聞くとすぐにメールに添付して修正を掛けたデータを送付した。



科捜研で明瞭に修正した写真の人物は誰なのか。意外な場所でその人物の素性がはっきりする。次回の投稿をお楽しみに。

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