12,福井での足取り
東京での調査活動を終えた反保はその成果を福井県警の林田に報告する。林田もホテルの防犯カメラから怪しい男の姿を捉えたことを伝える。林田はその捜査の方向をどこへ向けるのか。また反保たちは自分たちの不思議な縁に気が付くのか。
東京から戻った反保は福井県警の林田を訪ねた。東京での調査の報告をするためである。県警本部の林田のデスクを尋ねた反保は林田のデスク前に立って
「東京で宮内庁やNKH,警視庁などを周って話を聞いてきましたが、私たちは福井と奈良のアピール合戦にばかり目が行っていましたが、もう一つの反対勢力として民自党保守派を考えなくてはいけないことがわかったんです。僕が福井を舞台にするためにアピールしていた男大迹皇子(継体天皇)はその出身が不確定で大和朝廷の正当な後継者として考えるには疑問符が残るんです。継体天皇が正当な後継者でないとなると、男系の血統で受け継いできた天皇家の伝統が揺らいでしまいます。だから、戦前はその研究そのものがタブーだったんです。男系男子の血統を大切に守ってきた天皇家を強烈に支持する保守派の勢力にとって、NKHの年末歴史ドラマで扱ってもらうには不都合な題材と言えるわけです。だから佐久間美佳のところに民自党保守派のボスである関口議員から圧力があったらしいんです。林田さん、東京の警視庁の森内課長と連絡を取って関口議員の側近が福井に来てないか調べてもらえませんか。」とお願いした。その話を林田も聞いていたが、県警捜査1課の田邊課長も聞いていて、
「林田君、一度東京に連絡を取って見て、関口議員の周辺をあたってみると面白いものが出てくるかもしれないよ。」と捜査を進展させることに賛成してくれた。林田は
「課長も賛成していただければ思い切ってやれそうです。さっそく警視庁の森内課長にあたってみます。」と言ってその場で東京警視庁に電話を掛けた。
「警視庁の森内課長ですか。福井県警の林田です。先日、福井県庁の反保さんと奈良県庁の野坂さんがそちらにお伺いしたと思うんですが、7月13日に宮内庁の佐久間美佳さんが水死体で発見された事件で、死亡推定時刻の少し前に防犯カメラに佐久間さんとなぞの男が一緒に映る映像が出てきたんです。こちらではその謎の男の身元がわからず、捜査は暗礁に乗り上げていたんですが、反保さんたちからお聞きのように民自党の関口議員の周辺で怪しい動きがあります。防犯カメラの映像をそちらに送りますので、関口議員の周辺をあたってみてはいただけませんか。」と林田が電話口で説明すると
「話は反保さんと野坂さんからうかがっています。この話が本当で、殺害事件だとしたら大事件です。うちの捜査員にもその映像を見せて、関係ありそうな人物がいないか当たってみますので、しばらく時間を頂けますか。目途がついたら捜査本部を立ち上げましょう。」と協力を約束してくれた。
そばで聞いていた反保はほっと一息ついた。自分たちが最初に疑われたが、古くからの友人の殺人事件を解決する糸口が始まったのである。反保はすぐに奈良の野坂陽子に電話した。経過を話すと野坂も喜んで、東京での進展があったらまた連絡してねと頼んで電話を切った。
東京の警視庁で捜査を担当する刑事たちは大きな事件に発展しそうな匂いを感じながら、地道に捜査を続けていく。事件は意外な方向に進んでいくことになる。