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神国の幕開け

「正に未曾有の大事件でした。国民の皆さんは国家への信頼が大きく揺らいだことでしょう。先の調査報告が示した通り、体制内の武力行使による権力闘争だったのです。我が旅団は何れの側にも属さず、国家防衛のリスク対策による自動化された新機軸・・・妥当性と合理性に基づいて選ばれ、暴力の連鎖を断ち切る使命を受け、その任務を果たしました。残念ながら、現政権の腐敗の蔓延はおろか、国家の安全を損なう意図的な情報漏洩の証拠を発見したのは事実です。クーデター勢力がそのような体制の一掃を図って立ち上がったのも事実です。しかし彼らの目指すものは力による支配であり、国家観すらもたぬ単なる近視眼的野心にすぎなかったのです。我々は暴力の事態を収拾はしましたが、体制は大きなダメージを受け、国家は実に脆弱な状況にあります」

 制服組の一将官が、全国民から注目を浴びるほどの表舞台に立つことは極めて異例だ。市川陸将が一連の事件処理を統括する、責任者の立場としての根拠は、声明で触れた「選ばれし旅団」だった。

 彼は国家意思を形成する新体制の代弁者として、テレビをはじめとするメディアに語っている。

「今の政治システムは国益に何ら寄与していません。民主主義が何をもたらしたというのでしょう?その代表格であるアメリカは、相反する政治体制の中国にやがて追い抜かれるでしょう。民主主義は国民の政治への参加と、選択の機会を与える・・・大変な誤解です。選挙はショーと化し、選択の幅は極めて狭いのです。今やるべきこと、長期的な取り組み、投じる費用、国民の負担・・・その妥当性と合理性において、最大限のものを示す政治家など皆無です。日本の安全保障はどこへ向かっているのでしょう?日米同盟を基軸に、中露の覇権主義に対抗する方針ですか?そこまでアメリカに依存するなら、いっそのことグアム島のようにアメリカ領にしてもらえば安泰でしょう?いや、かえって戦場になるリスクが高まるとお考えの方もいるでしょう?戦いを避けるなら中国に編入してもらって香港のような自治区にしてもらう方法もあります・・・案外今より豊かな暮らしができるかもしれません・・・・お分かりですか?独立国として生きてゆくには無能な指導層を排除せねばなりません。これまで安全保障に投じたコストは?今、形になっているものよりはるかに莫大なものです・・・この大いなる無駄は費用対効果の無視という無能ぶりもさることながら、実戦における実用性よりも政治的利権が重んじられたことにあります・・・ここまで申し上げると、冒頭に触れた我々が選ばれたような判断の自動化による新機軸・・・つまりAIに政治判断まで委ねるのか?という議論になるでしょう。列強国に対抗する独立国家を目指すなら、答えはイエスです。それは我々に選択の機会を与え、あるべき方向性に導いてくれます。ベースの理念に基づき、日本が歩んできた歴史、国民性から新たな国家観を形成します・・・その理念、精神的支柱が『神国』なのです。ひとつの成果として、北方四島が我が国の主権に帰ったことをここに報告いたします。この戦略的思考能力を国民の皆さんに評価いただき、我々に日本の命運を委ねてほしい・・・」

 

 防衛省のある施設で、中西陸将補が首を吊っているのが発見された。防衛省は自殺と判断し、警察による検死は行われなかった。

 

 国後島から北海道へ戻った池田戦車隊長は第六旅団長に昇格した。同僚の辰巳の死の真相が、彼に伝えられることはなかった。


 RHSの管理を引き継ぐ島津は、彼が抜擢された理由をこのシステムを通じて知ることになる。体制の脅威は身近に存在し、政敵の排除の為、彼は秘密警察のように裏で暗躍することになる・・・正に彼の能力を最大限発揮できる立場といえる。


 時の英雄となった市川陸将は独裁者を否定し、やがて表舞台から現れなくなった。しかし陰で政権を操る最強の権力を手にしている。

 国家戦略会議は正式な機関ではないが、国際安全保障政策を決定づけるRHS主体の作戦会議の場だった。

 市川陸将主導のもと、島津と海自の有馬は必ず顔を出した。

「諜報組織こそ国の命運を左右します・・・私が選ばれたのもその体制づくりの為と理解しています」

 島津の発言に誰も異論はなかったが、対象国は中国、ロシア、それにアメリカも含まれ、工作員の育成をはじめ簡単でないことは明かだった。

「優先順位を決めましょう・・・次の戦略目標は?」

 有馬はRHSの次期作戦計画を知る島津に尋ねた。

「第二次朝鮮戦争、そして中露衝突の画策です」


 野口は国後島に借りた民家でサーシャと暮らしていた。

「あれから半年も経ったのね」

「バートフたちはどうなったんだろう・・・」

「私に調べさせたいの?知ったらまたあなたを殺そうとするかもしれないわ」

 サーシャは野口がバートフたちを売ったと思い込み、野口はナイフで殺されかけた。半年前の話だ・・・。

「なあ、俺の口から言うのも何だが、俺たち二人はこうしておとなしく暮らす性分じゃないよな?」

「何か始めたいの?」

「仕事の誘いだ。二人で工作員として海外へ行く気はないか・・・とふざけたことを言ってきた。もちろん断るつもりだ」

「行き先はどこ?」

「朝鮮半島に中国だ」

「そう・・・ロシア以外なら行ってもいいわ」



                        神国の旅団(完)



           登場人物(その後)


ウクライナ義勇兵 元自衛官陸士長 野口和正(RHS工作員)

レンジャー部隊 中隊長 前田栄一(戦死)

レンジャー部隊 三尉 加藤邦夫(戦死)

レンジャー部隊 陸士 山内英雄(事故死)

第7旅団 陸将 市川忠道(RHS参謀総長)

第7旅団 一佐 辰巳勝(戦死)

第7旅団 戦車隊長 池田守(旅団長)

第六師団 大和田駐屯地指令 一佐 高田一(戦死)

護衛艦艦長 有馬正(RHS参謀)

護衛艦副長 川中伸二

公安庁主任調査官 島津茂(RHS参謀)

公安庁調査官 大塚義明

幕僚監部 防衛部長 陸将補 中西正二(自殺)

CIA局員 ハリー・ターナー(失脚)

ロシア反政府組織 女スパイ サーシャ・マルティノフ(RHS工作員)

ロシア反政府組織 極東部隊隊長 G・K バートフ(処刑)

ロシア反政府組織 リーダー アンナ(行方不明)


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