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パーティー

 パーティーへの参加を認められ、ホッとしたのも束の間────私達は準備に追われていた。

ドレスやアクセサリーの新調はもちろん、礼儀作法の確認まで。

カーティスも久々に公の場へ出るため、ファッションの流行やマナーの変化を追うのに苦労していた。

『どうして、こうも面倒なことばかり……』と愚痴を吐いたのは、一度や二度じゃない。

でも────それも、もう終わり。

だって、今日が……いや、今日こそが皇室主催のパーティーに行く日だから。


「まあ!お二人とも、とっても素敵ですわ!」


 パンッと手を叩いて称賛するマーサは、ニッコリと微笑んだ。

『間に合って本当に良かったです』と述べつつ、スッと目を細める。

安堵とも歓喜とも捉えられる感情を見せる彼女の横で、クロウは共感を示した。


「ええ、本当によくお似合いです。黒い軍服を身に纏うカーティス様は威厳たっぷりで格好いいですし、ピンクのドレスを着こなすティターニア様は大変愛らしいです」


 『今夜の主役はお二人で決まりですね』と言い、クロウは笑みを零した。

かと思えば、私の羽織ったケープへ手を伸ばし、糸くずを回収する。

ついでにルビーをあしらったピアスと髪飾りの位置も調整してくれた。

『ありがとう』と礼を言う私に対し、クロウは笑顔で応じる。

────と、ここでシルバーがズイッと顔を近づけてきた。


「まあ、馬子にも衣装だな」


「そこは素直に褒めなさい、シルバー」


 『失礼でしょう』と弟の言動を叱るヴァイオレットは、こちらに向き直り謝罪する。

申し訳なさそうに身を縮める彼女に、私は『大丈夫』と返した。

見送りのため、わざわざ外に出てくれただけでも有り難いから。


「────さて、そろそろ行こうか」


 手に持った懐中時計を一瞥し、懐に仕舞うカーティスは『時間だ』と告げる。

黒の革手袋が嵌められた手をこちらに差し出し、『行こう』と促してきた。

当たり前のようにエスコートしてくれる彼に礼を言いながら、私はそっと手を重ねる。そして、馬車に乗り込んだ。


 クッションのおかげか、皇室の馬車より乗り心地がいいな。それに凄く温かい。


 『冷えないよう、色々工夫してくれたのかな?』と思いつつ、私はスッと目を細める。

────と、ここでカーティスが向かい側の席へ腰を下ろした。

それと同時に、馬車の扉は閉まる。

さあ、いよいよ出発だ。


「行ってらっしゃいませ、カーティス様、ティターニア様」


「道中、どうかお気をつけて」


「人間共をぎゃふんと言わせてこいよ!」


「くれぐれも危ない真似は、しないようにしてくださいね」


 クロウ、マーサ、シルバー、ヴァイオレットの順番で、それぞれ言葉を投げ掛けてきた。

窓越しに彼らと視線を合わせる私とカーティスは、僅かに頬を緩める。


「「うん(ああ)、行ってくる」」


 極自然に同じセリフを吐くと、馬車がついに走り出した。

振動を軽減する措置でもされているのか、大して揺れずにどんどん加速していく。

『この馬車、凄いな』と素直に感心していると、マーサ達の姿はあっという間に見えなくなった。

屋敷も木々に遮られてしまい、視界から消える。


 皇室の馬車より、圧倒的に早い。

馬じゃなくて、魔法で馬車を動かしているからかな?


 先日クロウから受けた説明を思い返し、私は『魔法って、凄いな』と絶賛した。

『これなら、直ぐに皇城へ着きそうだ』と考える中、私達を乗せた馬車は大公領を抜け、帝国へ入る。

と同時に、馬車が宙を舞った。


「事前に話してあった通り、ここから先は飛んで行くからね。帝国は大公領(ウチ)と違って、障害物が多いから」


 『いちいち減速したり、方向転換したりするのが面倒なんだ』と言い、カーティスは肩を竦める。

その説明に、私は小さく頷きながら『一直線に行った方が早いしね』と共感を示した。

馬車の小窓から帝都を見下ろし、僅かに目を細める。

だって、あちこちに灯りがついていてとても綺麗だったから。

青空とはまた違う絶景に目を輝かせる中、馬車はゆっくりと降下していく。

やがて皇城の出入り口付近に着地し、動きが止まった。


「着いたみたいだね。降りようか」


 そう言って、馬車の扉を開けるカーティスは先に降りて、こちらへ手を差し伸べる。

『おいで』と促す彼に頷き、私はそっと手を重ねた。

皇城の窓から漏れ出す明かりを頼りに、馬車から降りると手を離す。

カーティスは自由になった手で懐から懐中時計を取り出し、薄く笑った。


「予定通りだね」


「そうなの?でも、開始時間過ぎちゃってるよ」


 懐中時計を横から覗き込む私は、疑問を口にする。

すると、カーティスはニッコリと微笑んだ。


「元々時間通りに来るつもりはなかったから、問題ないよ。皇族・貴族が勢揃いしているであろう、ファーストダンスの時間に乗り込む予定だから」


 懐中時計を懐に仕舞うカーティスは、計画の概要しか話されていない私に更なる説明を加える。

そして、パーティー会場から漏れ出る音楽を聞くと、『ベストタイミングだね』と歓喜した。

どうやら、ファーストダンスが始まったらしい。


「ティターニア、心の準備はいい?」


「うん」


「じゃあ、行こうか」


 スッと腕を差し出すカーティスに、私はコクリと頷いた。

彼の腕にそっと手を添え、パーティー会場へ向かって歩き出す。

その途中、何度か衛兵に呼び止められたものの、私達の正体を知ると直ぐに引き下がった。

おかげで、すんなり会場に辿り着く。


「大公のカーティス・ノア・シュヴァルツと、妻のティターニア・ルーチェ・シュバルツだ。扉を開けてくれ」


 扉の両脇に控える衛兵へ招待状を見せ、カーティスは『入場したい』と申し出た。

すると、衛兵達はギョッとしたように目を見開く。

恐らく、闇の支配者と恐れられるカーティスが現れて、驚いているのだろう。

招待状には敢えて返事せず、いきなり登場することになっていたから。

彼らからすれば、まさに青天の霹靂の出来事と言える。


「しょ、招待状は本物のようですね……分かりました。直ぐに扉を開けます」


 招待状に施された封蝋を確認し、衛兵の一人がそう答えた。

かと思えば、観音開きの扉に手を掛け、一思いに開け放つ。


「────大公カーティス・ノア・シュヴァルツと、大公妃ティターニア・ルーチェ・シュバルツの入場です!」


 衛兵の一人が声を張り上げ、我々の入場を知らせると────会場内は一気に静まり返った。

時が止まった錯覚を覚えるほどに。

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