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願い

「ティターニア、実はね────そのパーティーというのが、皇室主催なんだ」


 へぇー。そうなんだ……って、それだけ?


 重々しい口調とは裏腹に全く重要じゃない内容に、私は戸惑いを覚える。

『えっ?これ、隠す必要あった?』と言いたくなるのを必死に堪え、目を白黒させた。

どんな反応をすればいいのか分からず、押し黙っていると、カーティス達は何故か眉尻を下げる。


「嫌なことを思い出させてしまったよね……すまない」


 『やはり話すべきじゃなかった……』と後悔を述べるカーティスに、私は困惑する。

と同時に、何故三人がこんなに気を使ってくれたのか、分かった気がした。


「ねぇ、嫌なことってもしかして────地下牢に閉じ込められてたくさん暴力を振るわれたり、暴言を吐かれたりした時のこと?それなら、別に気にしてないよ。嫌だって感じたことは一度もないから」


 トラウマの『ト』の字もない私は、至って冷静にそう答える。

ここでの生活が気に入っているため戻りたいとは思わないが、不快感を抱いている訳じゃなかった。

皇室に全く悪い印象を持ってない私に対し、カーティス達は唖然とする。

ずっと沈黙を守ってきたシルバーやヴァイオレットも、動揺を露わにした。

『地下牢って……嘘だろ(でしょう)』と呟き、頻りに頭を振る。

衝撃のあまり青ざめる彼らを他所に、私は口を開いた。


「だから、一緒に行こう。パーティーには、パートナーが必要なんでしょう?なら、私がカーティスのパートナーになるよ」


 『これでも一応、カーティスの妻だし』と言い、私は再度参加の打診をする。

────が、カーティス達はあまりいい反応を見せなかった。


「……気持ちは嬉しいけど、やっぱり連れて行きたくない。あんなおぞましい人間達の姿をティターニアに見せたくないんだ。何より、君を好奇な視線に晒したくない」


 『分かってくれ』と理解を求めるカーティスに、私は首を縦に振ることが出来なかった。

だって、そんな場所にカーティスを一人で行かせる訳にはいかないから。

私が一緒に行ったところで状況はあまり変わらないかもしれないが、視線や敵意を分散させることは出来た。

少なくとも、一極集中にはならないだろう。


「私なら、大丈夫だよ。大抵のことには、慣れているから」


「っ……!でも……!」


「────カーティス様」


 反論しようとしたカーティスの言葉を遮り、会話に割り込んできたのは────クロウだった。

何かを決意したような瞳でこちらを見つめる彼は、一歩前へ出る。


「お望み通り、パーティーへお連れしては如何ですか?いずれにせよ、ティターニア様のお力をお借りしなければならないのですから」


 意外にも私の肩を持つクロウは、『無関係のままでいられないなら、この際……』と口走った。

どこか含みのある言い方に首を傾げる中、彼はカーティスの説得を続ける。


「ティターニア様の名誉挽回の意味も込めて、いっそのことパーティーでアレ(・・)を行うのも一つの手です。宣言だけするより、ずっとインパクトが強いですし、誤解を生む可能性も低いです」


「それはそうかもしれないが……」


 渋るような動作を見せるカーティスは、頑なに首を縦に振ろうとしない。

でも、確実に決意が揺らいでいた。

悩ましげに眉を顰める彼の前で、クロウは『ふぅ……』と一つ息を吐く。


「カーティス様。貴方はいつまで────ティターニア様を“可哀想な生贄”で居させるおつもりですか?」


「っ……!」


 痛いところを突いてくるクロウに対し、カーティスは声にならない声を上げた。

グッと手を握り締め、『そんなつもりじゃ……』と弱々しく呟く。

先程より明らかに覇気のない彼を前に、クロウはフッと笑みを零した。


「カーティス様はティターニア様に一人の人間として、生きて欲しいのでしょう?なら、まずは『可哀想な生贄』というレッテルを剥がしてあげてください。このお方は崇められるべき存在なのだと、世に知らしめるのです。そして、本来譲受する筈だったものを取り戻してあげてください」


 優しく諭すような口調で言い聞かせるクロウは、『ティターニア様のために』と話を締め括った。

すると────今度はマーサが言葉を紡ぐ。


「旦那様。私も正直、行って欲しくありません。奥様には、ずっとここで穏やかに暮らして欲しいから……でも、それは私のエゴです。汚いものから遠ざけ続けて、奥様の可能性を奪うような真似はしたくない。だから、どうか────連れて行ってあげてください」


 クロウの主張を聞いて心変わりしたのか、マーサも私の願いを後押ししてくれた。

今にも泣きそうな表情で。

『自分の気持ちをかなり押し殺してくれたんだな』と感じる中、カーティスはそっと目を伏せる。

きっと二人の進言を受けて揺らぐ心に、向き合っているのだろう。

『いい返事を聞けるといいな』と思いながら待つこと五分────カーティスがようやく顔を上げた。


「……分かった。連れていこう。ただし、無理はしないこと。辛くなったら、必ず帰ると約束して欲しい。それから────一つ僕のお願いを聞いてくれないか?」


 真剣な面持ちでこちらを見据えるカーティスは、じっと反応を窺う。

どこか緊張したような雰囲気を放つ彼の前で、私は迷わず頷いた。

だって、こっちの願いだけ聞いてもらうのは不公平だから。


「何?私に出来ることなら、何でも力になるよ」


「ありがとう。これはティターニアにしか出来ないことだから、助かったよ」


 ホッとしたような表情を浮かべるカーティスは、僅かに肩の力を抜いた。

心做しか、雰囲気も和らいでいる。


 私にしか出来ないことって、一体なんだろう?そんなものないような気がするけど。

だって、私に出来ることは大抵みんな出来るから。


 『カーティス達ですら出来ないこと』という前提条件に、私はまず疑問を抱く。

でも、話を聞く前から『出来ない』と決めつけるのはどうかと思い、次の言葉を待った。

すると、カーティスが柔らかな……でも、どこか影を感じさせる声色で願いを唱える。


「ティターニア、どうか僕を────過去の呪縛から解き放って欲しい」


 自身の胸元に手を添えるカーティスは、泣き笑いに近い表情を浮かべた。

悲痛や安堵といった感情を見せつつ、そっと眉尻を下げる。

どことなく儚げな印象を受ける今のカーティスに、私は目を剥いた。


 そして、衝撃を受けている間に詳しいことを説明され、私は決意する。

────必ずカーティスを助ける、と。

正直、自分にそんな力があるのか疑問ではあるが、恩返し出来るチャンスを……カーティスの伸ばした手を、振り払う選択肢なんてなかった。

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