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 どうやって、ここまで連れてこられたんだろう?まさか、風に飛ばされて?

でも、どこかに移動しているような感覚は特になかったよ?

風に包み込まれるような感覚と浮遊感は、あったけど。


 地面に座り込んだまま真っ暗な空を見上げる私は、『歩いて屋敷に帰れるかな?』と思案する。

────が、帰る方向すら分からないため、どうすることも出来なかった。

『誰かの力を借りるしかないな』と冷静に考える中、不意に首への圧迫感が消える。

その代わり……と言ってはなんだが、胸ぐらを掴まれた。


「おい、聞いてんのか?ガキ」


「ガキじゃない。私はティターニア。あと、話は聞いてなかった」


 不機嫌そうに眉を顰める銀髪の吸血鬼(ヴァンパイア)に対し、私はいつもの調子で返す。

すると、彼は驚いたように目を剥き────プハッと吹き出した。


「ふははははっ!おもしれぇ!この状況で呑気に自己紹介とは、変わってんな!」


 『普通は泣き叫んでるぜ!』と言い、目尻に浮かんだ涙を拭う。

笑い過ぎて過呼吸になりかけている彼を前に、私は『そんなにおかしいことか?』と首を傾げた。


 初対面なら、自己紹介は当たり前だと思ったんだけど。

マーサも『挨拶は人付き合いの基本です』って、言っていたし。


 『ただ単に価値観が違うのかな?』と思いつつ、私は紫色の瞳を見つめる。


「ところで、貴方は誰なの?見たところ、吸血鬼(ヴァンパイア)みたいだけど」


「おいおい、自己紹介だけじゃ飽き足らず、俺の身元まで聞き出そうとしてんのかよ!お前、本当に肝が据わってんな!」


 動揺と興奮の入り交じった口調でそう言い、銀髪の吸血鬼(ヴァンパイア)は愉快げに目を細めた。


「まあ、いいぜ!てめぇの度胸に免じて、俺も自己紹介してやるよ!」


 『久々に大爆笑させてもらったしな!』と付け加える彼は、グッと親指で自身を示す。

と同時に、ニヤリと口角を上げた。


「俺様は────五人目の吸血鬼(ヴァンパイア)、シルバー・アメル・ブラッドだ。異世界召喚に関する問題を解決するために生まれてきた」


「異世界召喚……?」


 聞き慣れない単語が耳を掠め、私は思わず復唱する。

『なにそれ?』と首を傾げる私に対し、彼は『そんなことも知らないのか?』と肩を竦めた。


「異世界召喚っつーのは、こことは異なる世界から人や物を呼び出すことだ。まあ、簡単に言うと世界を跨いだ拉致や窃盗って言ったところか?」


「それは悪いことだね」


「ああ。だから、空間を自由自在に操れる俺様が生まれたんだ。さっきの転移だって、俺の力なんだぜ」


 『凄いだろ』と言わんばかりに胸を張る彼は、物凄く得意げだった。

自分の実力に絶対的自信とプライドを持っているからだろう。

『褒めてもいいんだぜ!』と述べる彼の前で、私は一人考え込む。

────が、どうしても理解出来なかった。


「ねぇ、転移って何?」


「いや、そこからかよ!わりと有名な魔法だろ!まあ、使えるやつは極端に少ねぇーけど!」


 素直に『分からない』と白状した私に、彼は落胆を露わにする。

『世間知らずにも程があるだろ……』と半ば呆れながら、溜め息を零した。

かと思えば、転移について丁寧に説明してくれる。


「転移っつーのは、離れた場所に一瞬で移動する魔法のことだ。大抵は距離を計算してから行うんだが、俺様は目的地を思い浮かべるだけで行けちまう。要するに天才って訳だ」


 最後に自画自賛を織り交ぜる彼は、実に得意げである。

同じ吸血鬼(ヴァンパイア)でも、カーティスとは全然違うタイプだった。


 なるほど。離れた場所に一瞬で移動、か。道理で全く振動がなかった訳だ。


 転移の意味を知り、一人納得する私は紫色の瞳を見つめ返した。


「うん、凄い。五人目の吸血鬼(ヴァンパイア)は正真正銘の天才だよ」


「よく分かってんじゃねぇーか!よし、特別に名前呼びを許してやる!」


 素直に称賛されて気を良くしたのか、彼は『シルバーって呼べよ』と促す。

明らかに機嫌の良さそうな彼を前に、私は口を開いた。


「分かった。シルバーって、呼ぶ。私のこともティターニアでいいよ」


「おう!」


 思いの外フレンドリーなシルバーは、親指を立てて了承する。

凄まじいスピードで上がっていく親密度と距離感に、私は戸惑いを覚えた。


 あれ?私達って、友達だったっけ?というか────


「────何で私を攫ってきたの?」


 今更ながら目的を尋ねる私は、『仲良くなっている場合じゃなかった』と反省する。

だって、マーサ達はきっと物凄く心配しているだろうから。

『早く皆のところに戻らないと』と考える私を前に、シルバーはハッとしたように目を見開く。


「そういえば、こいつ攫ってきたんだったな」


 『すっかり忘れていた』と零すシルバーは、ガシガシと後頭部を掻いた。

かと思えば、悩ましげに眉を顰める。


「攫った理由、か〜。特にこれと言って、ないんだよなぁ。たまたま、ここの結界が解けていたから侵入しただけで……せっかくだし、カーティスにちょっかいでも出そうと」


 『お前を攫えば、少なからず動揺するだろ』と主張するシルバーは、わざとらしく視線を逸らした。

どうやら、私を餌として利用したことに罪悪感を抱いているらしい。


 カーティスと言い、シルバーと言い……吸血鬼(ヴァンパイア)は優しい人ばかりなんだな。

私から言わせれば、そんなの『利用する』内に入らないのに。


 シルバーの行いに全くショックを受けていない私は、いつもの調子でやり取りを続ける。


「なら、直接カーティスに『構ってほしい』って言えば良かったんじゃないの?」


「バーカ!あいつが俺の気まぐれに付き合ってくれる訳ねぇーだろーが!てか、面と向かって『構ってほしい』なんて言える訳ねぇーだろ!」


「何で?」


 これでもかというほど拒否反応を示すシルバーに、私はコテリと首を傾げた。

すると、彼は噛みつかんばかりの勢いでこう答える。


「ダセェーからだよ!姉貴(・・)に対してならともかく、他の吸血鬼(ヴァンパイア)に媚売るのは有り得ねぇー!」


 『あいつら変に澄ましてるからよぉ』と文句を垂れつつ、シルバーは両腕を組む。

『こればっかりは譲れない』とでも言うように。

ここに来て頑な態度を取る彼を他所に、私は怪訝な表情を浮かべた。

何故なら、彼の発したある単語にとてつもない違和感を覚えたから。


「姉貴……?吸血鬼(ヴァンパイア)って、生殖能力がないんじゃないの?」


 遠回しに『姉弟なんて居ない筈』と主張する私に対し、シルバーは小さく肩を竦める。


「ああ、確かに吸血鬼(ヴァンパイア)に生殖能力はねぇ。だから、血は繋がってねぇーよ。でも、二番目の吸血鬼(ヴァンパイア)には散々世話になったからな。それこそ、生まれた時からずっと」


 昔を懐かしむように目を細めるシルバーは、少しだけ表情を和らげた。


「それだけ一緒に居たら、もう家族みたいなもんだろ?だから、親しみを込めて『姉貴』って呼んでんだ」


 『血の繋がりなんて、関係ねぇ』と言い切り、シルバーはニッと歯を見せて笑う。

相変わらず自信満々な物言いに、私は目を見開いた。


 血の繋がりだけが家族の形じゃないんだ。

多くの時間と信頼を重ねることで、家族になれることもあるんだね。


 全く新しい家族の概念に、私はただただ驚く。

でも、不快感や嫌悪感といった感情は特になく、わりとすんなり受け入れられた。

『私もいつか、マーサ達と家族になれるかな?』と思いつつ、僅かに目を細める。

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