祝☆採用
しんと静まり返った小部屋の中で、ダイナは一人ベッドに寝転がっていた。時折思い出したように寝返りを打っては、また元の体勢に戻る。そんな動作を、先程から何度か繰り返している。
ここは『カフェひとやすみ』から徒歩で100mほどの場所にある下宿所だ。ダイナの就職が決まったすぐ後に、老婦―ヤヤがこの下宿所へと案内してくれた。「この下宿所の管理人さんは私の馴染みでねぇ。当面の生活に不自由がないよう口利きをしてあげるわね」ヤヤの言葉は、今夜の宿がないと語るダイナへの配慮だ。
下宿所を紹介してくれただけでなく、ヤヤはダイナの雇用にあたり色々と融通を利かせてくれた。今日は疲れているだろうから、出勤は明後日からで良い。下宿所の調理スペースは手狭だろうから、3食の食事はカフェでまかないを提供する。カフェ店員としての基本給の他、神具の売り上げはダイナの小遣いにしてよい、などなど。さらに下宿所の管理人は、ダイナに一通りの家具が揃った部屋を貸し出してくれたし、初回の下宿費の支払いは給与が入った後で良いと言ってくれた。たくさんの気遣いに支えられて、ダイナはようやく神都の生活を手に入れたのだ。
仕事と住まい。それだけあれば、最低限この土地で暮らしていくことはできる。あとは少しずつ、日々の暮らしを豊かにしていけばいい。ダイナは柔らかな布団の上で、小さな手のひらを握り締める。
「お父さん。私、何とか神都で暮らしていけそうです」
愛した人はもう、傍らにいないけれど。
☆くださった方、ありがとうございます!踊りまわるくらい嬉しいです!